その程度の身分だと突き返し、強い不信感を面に出す。

「どうせ天士ホウレイの下へ連れて行き、利用価値が無くなれば、首を()ねる魂胆なのだろう」

「とんでもございません。ピンインさまのことは、『最後』まで護衛させて頂きます」

 最後を強調されても、それは嫌味にしかならないだろうに。ユンジェは呆れてしまう。

「誰が貴様らを信用しようか。私の命を脅かし、声を奪い、逆心した兵士達を、どう信用しろと。勝手に死を望んでおきながら、利用価値が出た途端、必要とするなど笑止。私には関係のない話だ」

 彼の怒りは止まらない。ティエンはユンジェと正反対で、ここぞと心を吐き出した。我慢が苦手と自称するだけある。
 
 ユンジェは冷め始める料理を見つめた。
 彼は言っていた、王族時代の己は生かされていたと。こんなに贅沢な食い物があっても、綺麗な衣を着ることができても、温かな寝床があっても、生きる実感が湧かなかったと。

 彼は常に他者の思惑や都合に、翻弄されていたのだろう。

「お怒りはご尤もでしょう。しかしながら、ピンインさまには我々と来て頂きたい。天士ホウレイさまが貴方をお待ちしております」

「断る、といえばどうする」

「無礼を承知の上で、少々手荒なことをさせて頂きます」

 ちらりとユンジェに視線を投げてくるカグムは、なんて卑怯な手を使ってくるのだろうか。彼はティエンの弱点を見抜いている。

「どうぞ、ご賢明な判断をお願い申し上げます。我々も王子を傷付けたくございません」

 深く頭を下げてくるカグムに、ティエンの怒りは最高潮に達する。白い肌が見る見る紅潮した。下唇が切れてもなお、噛み締めている。

 なるほど、ここには『王子』の味方はいれど、『ティエン』の味方はいないのか。不幸が起これば呪われた王子のせいとし、これからの不幸を予期すれば呪われた王子に重荷を背負わせる。それはとても悲しい話だ。

(タオシュン達から逃れても、結局ティエンは囚われの身か。俺達は生ぬるい牢に飛び込んじまったんだな)

 彼は本当に孤独な立場にいると思った。