三人の判断を信じて、天降(あまり)ノ泉を目指そう。それしか方法はない。

 そこまで考えた時、ユンジェは小さな懸念を抱く。

 麒麟は夢の中で自分に神託を預け、ティエンに天降(あまり)ノ泉へ行くよう導いた。当初、ティエンは行くことに否定的な姿勢を示していたが、ユンジェがはぐれてしまったことで、きっと行く気持ちを固めることだろう。
 勿論、これはユンジェのせいではなく、偶然に偶然が重なってはぐれてしまった結果であるが、心のどこかで偶然なのか、と疑問に抱いてしまう。

 ユンジェの行動一つでティエンの行動が変わるのだ。

 懐剣の自分は麒麟の使命の下、知らず知らずのうちに、ティエンを導いているのではないだろうか。気づかない内に、王座への道を歩かせているのやもしれない。それが不安で怖い。
 
 彼は王族の身分を拒絶している。ふたたび平穏な農民暮らしを夢見ている。なのに、ユンジェのせいでそれが叶わなくなってしまったら……考えすぎだろうか。

 しかし。どうしても考え込んでしまうのだ。リャンテと遭遇した瞬間を思い出すと、余計に。

(リャンテは、なんで賊の振りをしていたんだろう)

 それだけではない。彼は青州兵に追われるユンジェを助けた。なぜ。善意でないことは確かだろう。もしかすると、ユンジェの正体に気づいているかもしれない。

 とにもかくにも、リャンテには要注意だ。セイウ同様、まったく心が読めない。

 乾いた衣に腕を通し、しかと帯を締めると、早速ユンジェは行動を開始した。
    

 まずは木登りをして方角を確かめる。次に水の確保と食糧集めと、軽く道具作りをしよう。一刻も早く天降(あまり)ノ泉に行きたい気持ちはあれど、準備を怠れば痛い目を見る。よく考えて行動しなければ。


(出発は明日になりそうだけど、ま、いっか。昨日から寝てねーし、今日は此処で準備をして、早めに休もう。急がばまわ……まわ……急がばナンタラって奴だな)


 旅に出て、はじめての単独野宿だ。


 夜盗などを考えると、恐怖心が芽生えてくるが、そこらへんは考えても仕方がない。考えれば考えるだけ怖くなることを知っているユンジェは、頭から夜盗や追っ手のことをもみ消すことにした。やれることをやっておかなければ。