麟ノ国第一王子リャンテは馬に跨り、少数の兵を率いて蓮ノ都を発っていた。

 その格好は色褪せた麻衣と身軽、どこからどう見ても王族には見えない。下手をすれば平民以下の賊を彷彿させる格好であった。

 ゆえに率いる兵達はリャンテの格好を気遣い、もっと良い衣を着てくれるよう懇願した。
 正妃の子息が平民の格好どころか、賊のような格好をするなんて、リャンテ自身の面子に関わる。そう言いたげな顔をしている。

「王子、せめて鎧だけでも」

 進言してくる兵達を疎ましそうに見やり、リャンテはこれで良いのだと鼻を鳴らした。

「セイウの野郎が俺達の動きを見張っているんだ。これくれぇしねーとな」

 表向き、派手に戦をしたのだ。あれは注意深くリャンテの動きを見張ることだろう。
 それだけではない。父王も、水面下で監視をしろと命じたのに、なぜ派手に戦をしているのか、疑問を抱いているはずだ。

 注意深くなる人間達ほど、視野が狭くなる。これは絶好の機会であった。
 誰が想像しようか、第一王子が小汚い賊に成り済ますなど。

(本当は椿ノ油小町で、懐剣の足取りを追う予定だったんだが)

 青州兵は、なかなか骨のある者達ばかり集っていた。それゆえ、戦に熱中してしまい、懐剣の子どもを見逃してしまったのである。
 惜しいことをしたと思う反面、また奪う機会はいくらでもあるだろう。リャンテは楽観的なことを考える。

「これからどこへ?」

 隣を走る近衛兵のソウハに尋ねられ、リャンテは口端を赤い舌で舐めた。


「麒麟の使いと言えば麒麟だ。俺は青州で最も麒麟とゆかりある土地に、竹簡を出しておいた。今から、そこを任されている将軍の下へ向かう。なんとなく、そこへ行けば懐剣の手掛かりが掴めそうな気がしてな」


 そう。十瑞将軍の愚息。虎の威を借る、ろくでなし将軍グンヘイの下へ。