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「ティエン。大丈夫か? もっと俺の籠に豆を入れてもいいんだぞ」

 ユンジェは朝から、ティエンを連れて出掛けていた。
 日課となっている畑仕事には向かわず、収穫した芋や豆を背負い籠に入れ、険しい森を進んでいる。

 おうとつと傾斜が激しい道なので、慣れていないとティエンのように、すぐ疲労してしまう。

「ほら、ティエン」

 頭から布をかぶり、顔を隠しているティエンだが、その下は苦痛にまみれていることだろう。息が上がっている彼を気遣い、己の背負い籠に収穫した豆を入れるよう促す。

 しかし、ティエンは首を横に振った。
 これ以上、軽くしてもらっては悪いと思っているのだろう。ユンジェの背負い籠には重量感のある、大小の芋が隙間なくひしめきあっている。

 ユンジェにしてみれば、彼が持ってくれている分、いつもよりも軽いと思える量なのだが、ティエンは頑なに気遣いを拒んだ。

「なら。もう少し、ゆっくり歩くよ」

 ティエンが申し訳なさそうに頷いた。険しい道に加え、歩く速度が早かったようだ。

「ん? なに」

 彼が口を動かし、何かを訴えてくる。おおかた今日の予定を聞いているのだろう。

「塩と油、それに藁が少なくなったから、物々交換に行くんだ。まずはいつも、藁をもらっている農家に行く。笊一杯分の豆と芋で、五束は交換してもらえるはずだ」

 すると。彼はぎゅっと眉を寄せてしまった。貴重な収穫物を藁に交換するのは勿体無い、とでも思っているのだろう。
 とんでもない。その反対だ。

「藁は物を作るだけじゃない。畑の肥料にもなるんだ。良い土が手に入れば、良い収穫物になって高く売れるだろ? だから藁は必要なんだ。もう米の収穫も終わっているだろうから、藁が出ているはずだ」

 ユンジェの家は水田を持っていないため、それを持つ農家の下で、物々交換の取引をしている。
 水田を持つ農家も、芋や豆といった食糧が欲しいことは知っている。芋に至っては保存も利くのだ。円滑に取引が行えるだろう。

「なんだよ、ティエン。そんなに感心したって、今日の飯は豪華になんねーぞ。畑仕事やっている人間なら誰でも知っていることだって」

 何度も頷き、態度でユンジェを称賛するティエンに苦笑いを作る。悪い気はしなかった。