それは、白黒だった俺の世界が、鮮やかに色づいた瞬間だった。
震える肩、こぼれる涙、流れ込んでくる中野の感情に偽りはなく、ただただ優しい気持ちが胸の中に広がっていく。ただ、愛しい。声にならないほど、君が愛しい。目の前には、顔を真っ赤にしている中野がいる。彼女の熱を冷ますように、冷たい夜風が吹いた。その風は俺の胸を震わせ、全身を奮い立たせた。人生の半分以上の幸せを今、この瞬間に使ってしまった気がした。そんな感動が体中を駆け巡っている。
「こんな幸せなこと、想像もしてなかった……」
ゆっくりと体を離し、頬に手を添えた瞬間、中野は一瞬びくっと肩を震わせた。俺は、安心させるように手を握って、顔を近づけた。初めて触れた唇は、思ったより冷たくて、愛しかった。
白い月に照らされながら、まるでここだけ世界が違うようだと思った。それは多分、中野がいるからそう感じるんだろうけれど。
僕たちに、一生そばにいられる確かな約束なんてなかったけれど、切ないほどにそれを祈っていた、ちっぽけな自分。そのとき、やっと本当の自分に会えた気がしたんだ。
ただ、繋がれた手は、涙が出るほどあたたかかった。