さっきの宮本さんのときと同じだ。いつもこうやって周りの人を不安にさせてしまう。胸の中が、また情けない気持ちでいっぱいになった。
言葉にして否定すると、なんだか白々しくなってしまいそうで、俺はぶんぶんと首を横に振ることしかできなかった。
「……じゃあ、ちゃんと、“またね”って言ってよっ……」
……そのとき、かすれた中野の声が、微かに聞こえた。中野の手は、かたかたと震えている。
「またねって、言ってよ……。ちゃんと、また会おうねって、また会えるよって言ってよ。もうやだよっ……。もう、誰かに急にいなくなられるのは嫌だよ、もし日向君がいなくなったら、悲しくてやりきれないよ」
噓だろう。こんな、こんなこと言ってもらってもいいのか、俺は。こんなに優しい人に触れてもいいのだろうか。傷つけるのが怖くて、傷つくのも怖くて、そんな臆病者の俺でもそばにいていいのか。
俺はそろりと中野の頬に手を差し伸べた。彼女がびくっと肩を震わせた次の瞬間には、ぎゅうっと苦しいほどに彼女を抱き締めていた。
全身が安心と幸せで満たされた気がした。中野の体は、柔らかくてあったかくて、力を込めたら壊れてしまいそうだった。
だけど俺は、指先から、全身から、この気持ちを全部伝えたくて、必死に抱き締めた。心臓が、激しく脈打っている。
「俺、人とは違うけど、それでも、いいの」
「何が、いいの……?」
「そばにいても、いいの」
思ったよりもかすれてしまった声を恥ずかしく思っていると、中野の手が俺の背中に回ってきて、彼女はそのまま俺に抱きついてきた。中野は、何も言わずひたすら俺にしがみついて、時折泣き声のようなものが曇って聞こえた。ああ、こんな感じなのか。声にしなくても言葉にしなくても伝わる思いって、本当にあったんだ。聞き取るのに困難なくらい弱々しい中野の声に、俺は必死に耳を澄ませた。
「離れないでっ……日向君がいなきゃ嫌だよ」
ぽろりと、嘘みたいに涙がこぼれ落ちた。こんな、こんなあたたかい気持ちを、俺は初めて知ったよ。もう中野以外何もなくたっていい。この瞬間を、俺は何十年経っても忘れない。絶対に忘れない。
「好きだ……ごめん」
言葉にした瞬間、何十倍も中野のことが愛しくなってしまった。次々と溢れて止まらない。好き、好きだ。こんなにも人を愛しいと思ったのは、本当に初めてだ。猫っ毛の髪も、小さな手も、長いまつげも、全部、震えるほど愛しくなってしまった。
「どうして謝るの……? ごめんの理由が、見つからないよ」
しばしの静寂の後、聞こえたのは、消えそうなくらい小さな声だった。彼女は、今にも壊れそうな顔で、俺を見上げた。
「好きだよ、日向君が」
言葉にして否定すると、なんだか白々しくなってしまいそうで、俺はぶんぶんと首を横に振ることしかできなかった。
「……じゃあ、ちゃんと、“またね”って言ってよっ……」
……そのとき、かすれた中野の声が、微かに聞こえた。中野の手は、かたかたと震えている。
「またねって、言ってよ……。ちゃんと、また会おうねって、また会えるよって言ってよ。もうやだよっ……。もう、誰かに急にいなくなられるのは嫌だよ、もし日向君がいなくなったら、悲しくてやりきれないよ」
噓だろう。こんな、こんなこと言ってもらってもいいのか、俺は。こんなに優しい人に触れてもいいのだろうか。傷つけるのが怖くて、傷つくのも怖くて、そんな臆病者の俺でもそばにいていいのか。
俺はそろりと中野の頬に手を差し伸べた。彼女がびくっと肩を震わせた次の瞬間には、ぎゅうっと苦しいほどに彼女を抱き締めていた。
全身が安心と幸せで満たされた気がした。中野の体は、柔らかくてあったかくて、力を込めたら壊れてしまいそうだった。
だけど俺は、指先から、全身から、この気持ちを全部伝えたくて、必死に抱き締めた。心臓が、激しく脈打っている。
「俺、人とは違うけど、それでも、いいの」
「何が、いいの……?」
「そばにいても、いいの」
思ったよりもかすれてしまった声を恥ずかしく思っていると、中野の手が俺の背中に回ってきて、彼女はそのまま俺に抱きついてきた。中野は、何も言わずひたすら俺にしがみついて、時折泣き声のようなものが曇って聞こえた。ああ、こんな感じなのか。声にしなくても言葉にしなくても伝わる思いって、本当にあったんだ。聞き取るのに困難なくらい弱々しい中野の声に、俺は必死に耳を澄ませた。
「離れないでっ……日向君がいなきゃ嫌だよ」
ぽろりと、嘘みたいに涙がこぼれ落ちた。こんな、こんなあたたかい気持ちを、俺は初めて知ったよ。もう中野以外何もなくたっていい。この瞬間を、俺は何十年経っても忘れない。絶対に忘れない。
「好きだ……ごめん」
言葉にした瞬間、何十倍も中野のことが愛しくなってしまった。次々と溢れて止まらない。好き、好きだ。こんなにも人を愛しいと思ったのは、本当に初めてだ。猫っ毛の髪も、小さな手も、長いまつげも、全部、震えるほど愛しくなってしまった。
「どうして謝るの……? ごめんの理由が、見つからないよ」
しばしの静寂の後、聞こえたのは、消えそうなくらい小さな声だった。彼女は、今にも壊れそうな顔で、俺を見上げた。
「好きだよ、日向君が」