俺はゆっくりと首を縦に振った。
「……俺は、そんなに頼りないか……? 佳澄……」
 微かに震えている宮本さんの声に、胸が苦しくなった。違う。違う、そうじゃない。そうじゃなくて。俺はただ、もうこれ以上誰かを巻き込みたくないんだよ。なのに、なんで俺は、こうも大切な人を大切にできないんだ。なんて、非力なんだ。
「信頼してるから、言えない……」
 何もかもが情けなくて、じっと涙が込み上げてきそうになった。こんな能力がなければと、今、心の底から思った。こんな、こんな能力要らなかった。人の心なんか、分からなくたっていい。
「オーナー。あの、お客が……」
 その瞬間、カランカランというベルとともに、常連の客たちが入ってきた。それを気まずそうに知らせる新人のバイトに、宮本さんは、何か言いたげな顔を一瞬したけれど、「ああ」と返事を返した。
「とりあえず、佳澄、このことはまたあとでじっくり話そう。なあ、それまでにもう一度よく考えてくれないか……?」
 俺は黙り込んだまま、宮本さんがホールに戻っていくのを見ていた。
「日向君、カウンター空いてる?」
 そのとき、ポン、と肩を誰かに叩かれた。突如視界に飛び込んできた赤いマニキュアに驚き、振り向いたそこには、雪さんがいた。
「元気ないね。どうしたの?」
「……別に。なんでもないです」
 俺は必死に平静を装って冷たく言い放った。ざわざわと騒ぎ出す胸を押さえたけれど、体が、この人に対して拒否反応を示している。
「へぇ……。今日は随分機嫌が悪いのね。何か嫌なことでもあったのかな」
「あの、この前聞き忘れたんですけど、あのときのガラスのケガって……」
「それとも悩んでいるのかな?」
「何をですか、話をさえぎらないでください」
「自分の能力のことについて」