「娘よ、立ってるついでに出てきて」
お母さんは唐揚げを口に頬張りながら私に命令した。私はそれに少しイラッとしたけれど、どんなついでだ、と反抗している暇なんてない。慌てて電話のある部屋まで走った。
「はい。もしもし中野です」
「サエっ、その声はサエかい?」
電話から聞こえたのは、悲鳴にも近いおばあちゃんの声だった。その声に驚いて、一瞬呼吸の仕方を忘れた。
「ど、どうしたのっ?」
「お店のグラス、割られてたのよ……ちょっと二階で品物の整理している間に……」
冷たい衝撃が、心臓に突き刺さった。おばあちゃんは、ひどく焦っているようで、ロレツが上手く回っていない。それとは逆に、私の思考回路は忙しく動いていた。早く警察に言った方がいいのではないか。
犯人は、一体誰? どんな目的でそんなことを――—。
「ガラスの割れた音がして、慌てて一階に下りたらそのときにはもうっ……」
目の前に浮かんだのは、なぜか割れたグラスの残骸ではなく、おじいちゃんの顔だった。その瞬間、悲しみに襲われた。お店にあるものは全て、おじいちゃんの、形見そのものだったのに。
おばあちゃんの声がどんどん遠くなっていくのを感じた。近づいてくるのは、おじいちゃんの優しい声。行かなきゃ。今すぐお店へ行って、おばあちゃんを助けてあげなきゃ。まるで警報が鳴ったかのように、その意思は私の体を動かした。
「おあばあちゃん、待ってて。今行くよ」
がしゃんと受話器を置いて玄関に向かい、あちこちに散らばっている、ふぞろいの靴を適当に履いて重たいドアを押し開ける。ドアを開ける音に気づいたのか、お母さんが私を呼んだ。
「ちょっと、どっか行くの、サエ」
お母さんは唐揚げを口に頬張りながら私に命令した。私はそれに少しイラッとしたけれど、どんなついでだ、と反抗している暇なんてない。慌てて電話のある部屋まで走った。
「はい。もしもし中野です」
「サエっ、その声はサエかい?」
電話から聞こえたのは、悲鳴にも近いおばあちゃんの声だった。その声に驚いて、一瞬呼吸の仕方を忘れた。
「ど、どうしたのっ?」
「お店のグラス、割られてたのよ……ちょっと二階で品物の整理している間に……」
冷たい衝撃が、心臓に突き刺さった。おばあちゃんは、ひどく焦っているようで、ロレツが上手く回っていない。それとは逆に、私の思考回路は忙しく動いていた。早く警察に言った方がいいのではないか。
犯人は、一体誰? どんな目的でそんなことを――—。
「ガラスの割れた音がして、慌てて一階に下りたらそのときにはもうっ……」
目の前に浮かんだのは、なぜか割れたグラスの残骸ではなく、おじいちゃんの顔だった。その瞬間、悲しみに襲われた。お店にあるものは全て、おじいちゃんの、形見そのものだったのに。
おばあちゃんの声がどんどん遠くなっていくのを感じた。近づいてくるのは、おじいちゃんの優しい声。行かなきゃ。今すぐお店へ行って、おばあちゃんを助けてあげなきゃ。まるで警報が鳴ったかのように、その意思は私の体を動かした。
「おあばあちゃん、待ってて。今行くよ」
がしゃんと受話器を置いて玄関に向かい、あちこちに散らばっている、ふぞろいの靴を適当に履いて重たいドアを押し開ける。ドアを開ける音に気づいたのか、お母さんが私を呼んだ。
「ちょっと、どっか行くの、サエ」