そう質問したが、先生は静かに首を横に振った。気まずく重たい空気に耐えていると、先生がゆっくり口火を切った。
「……日向と、仲いいんだろ中野」
 予想外の質問に、私は思わず間抜けな声を出してしまった。
「仲いいよな?」
 先生は鋭い視線で私をとらえている。ただ事ではない雰囲気に、ドクンドクンと心臓は強く脈打ち出した。なんで、いきなりそんなことを聞くのだろうか。頭の中は、疑問でいっぱいだ。なんと言っていいのか分からなくて、うつむき黙りこくっていると、先生がまた低い声でしゃべり出した。
「……あんまりアイツに深く入り込むなよ。話はそれだけだ」
「え、あの、朝倉先生」
 先生はそれだけ言うと、スタスタと歩き出してしまった。納得のいかない私は、思わず先生のスーツの袖を引っ張った。だって聞きたいことがあり過ぎる。教師が、仲よくするななんて、そんなこと言うのはおかしい。
「そ、それは、もう日向君と仲よくするなってことですか……」
 自分で言って自分で傷ついた。
“もう仲よくできないのかもしれない”とどこかで小さく生まれた不安が更に大きくなった。
「そうかもな」
 先生のその言葉が、更に私をどん底へと突き落とす。
 “心が読まれてしまうから近づくのが怖い”と、そう思ってしまった自分が恥ずかしい。
 だってとっくに、そんなの承知のうえで仲よくなったんじゃないか。何を今更言ってるんだ。最低だ、私は。本当に一番怖がっているのは、能力とか、そんなんじゃない。こんな汚い自分を知られたら、嫌われてしまうんじゃないかってことだ。それが怖くて仕方ない。
「おい、なんで泣きそうになってんだよ」
 突然、歯を食いしばって泣き出しそうになった私を見て、朝倉先生が急に焦り出した。こんな先生を見るのはかなり貴重だけれど、その光景をしっかり目に焼きつけている余裕なんかなくて、私はひたすらわけの分からない言葉を発した。
「先生は、日向君の何かを知ってるんですか……? じゃないと、そんな忠告しませんよね」
 その質問に、先生は答えてくれなかった。こんなこと、俺だって言いたくないと、つらそうに瞳が揺れていた。