▼心の声──中野サエ
おばあちゃんが声をかけていたのにも気づかずに、日向君が去っていく後ろ姿を呆然と見つめていた。顔色がひどく悪かったから、急に体調でも崩したのだろうか。……それとも。
「読まれちゃったのかな」
嫌な予感は、一気に私を不安の渦へと突き落とす。
「サエ、ちょっと包装、手伝って。手が足りんのよ」
おばあちゃんの声を聞いてハッとしたが、気づいたら冷や汗が額を伝っていた。私は頭をぶんぶんと振り、雑念を払ってからおばあちゃんの元へ向かったが、少しもモヤモヤは晴れない。
「何、日向君、体調でも崩したんかい? 顔色悪かったけど」
私はうつむいたまま首を横に振った。
「なあに恵美さん、日向君ってさっきの男の子?」
「そうそう。たまにここに来るんだけど、かっこいいのよー。背も高くて垢(あか)抜けてて」
おばあちゃんは横でお客さんと会話をし始めたが、私は心の中を読まれたかもしれないという動揺で、それどころではなかった。
「やだ、恵美さん。旦那さんも妬いちゃうわよそんなこと言ってると」
お客さんが笑いながらそう言った。
「あははっ。そんな妬く男じゃないわよ、うちのはー」
おばあちゃんの笑顔が、こんなにも悲しく見えたのは初めてだった。余計に痛々しくて、私は思わず目を逸らした。……お客さんは、おじいちゃんがもういないことなんて知らないんだからしょうがない。なんどそう言い聞かせても、無神経だと叫んでいる自分がいる。そんな自分がひどく汚れて思えて、嫌だった。
次の瞬間、自己嫌悪に陥って上の空だったせいで、私はお客さんの品物を床に落としてしまった。店中に響くガラスの割れた音と飛び散る破片に、しばらく沈黙が流れたけれど、すぐさまおばあちゃんは慌てたように私の手を握った。
「大丈夫? ケガしてない?」
おばあちゃんが声をかけていたのにも気づかずに、日向君が去っていく後ろ姿を呆然と見つめていた。顔色がひどく悪かったから、急に体調でも崩したのだろうか。……それとも。
「読まれちゃったのかな」
嫌な予感は、一気に私を不安の渦へと突き落とす。
「サエ、ちょっと包装、手伝って。手が足りんのよ」
おばあちゃんの声を聞いてハッとしたが、気づいたら冷や汗が額を伝っていた。私は頭をぶんぶんと振り、雑念を払ってからおばあちゃんの元へ向かったが、少しもモヤモヤは晴れない。
「何、日向君、体調でも崩したんかい? 顔色悪かったけど」
私はうつむいたまま首を横に振った。
「なあに恵美さん、日向君ってさっきの男の子?」
「そうそう。たまにここに来るんだけど、かっこいいのよー。背も高くて垢(あか)抜けてて」
おばあちゃんは横でお客さんと会話をし始めたが、私は心の中を読まれたかもしれないという動揺で、それどころではなかった。
「やだ、恵美さん。旦那さんも妬いちゃうわよそんなこと言ってると」
お客さんが笑いながらそう言った。
「あははっ。そんな妬く男じゃないわよ、うちのはー」
おばあちゃんの笑顔が、こんなにも悲しく見えたのは初めてだった。余計に痛々しくて、私は思わず目を逸らした。……お客さんは、おじいちゃんがもういないことなんて知らないんだからしょうがない。なんどそう言い聞かせても、無神経だと叫んでいる自分がいる。そんな自分がひどく汚れて思えて、嫌だった。
次の瞬間、自己嫌悪に陥って上の空だったせいで、私はお客さんの品物を床に落としてしまった。店中に響くガラスの割れた音と飛び散る破片に、しばらく沈黙が流れたけれど、すぐさまおばあちゃんは慌てたように私の手を握った。
「大丈夫? ケガしてない?」