翌日、私は日向君のことで頭がいっぱいでよく眠れなくて、睡眠不足のまま登校した。そして昼休みに、梓に左頬を御箸入れでつつかれてやっと我に返った。どうやら私は今朝からずっと日向君をじっと見ていたらしい。確かに今朝から、昨日のお詫びに買ったお菓子をあげるタイミングをうかがっていた、ということはあるけれど、別にずっと見ていたつもりはなかった。でも、自然と目で追ってしまっていたのだろう。昨日のことがあってから、私の中のホットトピックが完全に日向君になってしまったのだ。
 それにしても、日向君は授業中以外昼休みまでずっと寝ていて、話しかける余地がなかった。お詫びのお菓子をあげるとしたら、次の移動教室のときしかない。
「何、サエ、日向と何かあったの?」
 梓が怪しそうに聞いてくるので、私は動揺しながらも首を横にぶんぶんと振った。
「いや、ただ、日向君の優しさに改めて気づかされたというか……」
「ちょっと、その話もっと聞かせなさい」
 その話題にかなり興味を持ったのか、梓は身を乗り出してきた。だから私はここぞとばかりに、昨日の事件も含めて日向君の魅力を語った。梓は最初はうんうんと聞いてくれたが、途中から何かを疑うような表情になってきた。
 そして、突然爆弾発言をした。
「え、それって、サエのこと好きなんじゃないの? サエのこと見てるから、数学の授業のときも困ってるの分かったんだろうし……」
 私は思わず飲んでいたミルクティーでむせてしまった。私は全力で首を横に振り、否定した。
 天と地がひっくり返ってもそんなことあるわけない。
 けれど、梓はからかうように笑った。
「サエ、モテ期到来かもよ? って、やば、もうこんな時間。教室移動しなきゃ」
「あ! 日向君がもういない!」
 私は教科書、ノート、資料集を慌てて机から取り出して教室を飛び出た。大嫌いな数学の授業がこんなに待ち遠しかったことはない。今度こそは絶対に話しかけて、お詫びのお菓子を渡すんだ。
 指定の教室へ駆け込むと、ちょうど日向君が席に座ろうとしているところだった。教室には少しずつ人が集まってきていたので、私は日向君の隣の席を取られまいと、先に教科書を机に置いて席を取った。
「お、お隣、いいですかっ」
「あ、えっと、……うん」