ドアを開けた途端、声をかけてきたのはさっきウワサしていた滝本君だ。どうやら私と同じ委員会の滝本君は、あんまりしゃべったことのない私にも、人懐っこい笑顔でひらひらと手を振ってくれた。無造作に跳ねている、明るめの茶色に染めた髪は、滝本君の顔立ちにすごく合っている。私は誘導される通りに滝本君の隣に座ったけれど、教室には私たち以外、まだ誰も来ていなかった。
「日向、まだ来ねぇーんだよ。アイツー」
「あ、日向君、探したんだけどいなくて、一緒に連れてこられなくて……」
「あいつ、人に迷惑かけるタイプのマイペースだからな」
「仲いいのに、そんなこと言って」
 滝本君は沈黙なんてつくる間もなくしゃべり続けた。話を聞くと、滝本君と日向君は同じ中学で、その頃からの友人らしい。どおりで仲がいいわけだ。
「でもさー、アイツ本当につかみどころねぇから。正直たまに俺ってちゃんと友達なのかなーって思うときあるよ」
「あー、日向君クールだからね」
 “それは私も分かる気がする”。
 のど元まで込み上げてきたその言葉をギリギリのところでのみ込んだ。なんとなく、それを口にしただけで日向君との関係崩れるような気がしたから。というより、口にしたら悲しくなっちゃいそうだったんだ。滝本君は少し重い話題になってしまったことに気づいたのか、すっと話題を変えた。
「日向は自分の感情に鈍いから、何に興味があって何が好きとかはっきり気づけないんだよ。だから本当にお世話がたーいへん」
 呆れ返ったように苦笑する滝本君がおかしくて、私は少し噴き出した。
 まるで保護者のような言い方だ。
「まあ、そんな奴ですが、これからも日向と仲よくしてあげてな。中野」
「もちろん」
「日向に女友達って、中学んときからの知り合いが知ったら、ビックリするだろうな」