サエー看板こんなんでどー?」
「すごい! クオリティ高過ぎ」
「よかった。じゃあこれで進めるね」
 着々と進む文化祭の準備にみんなのボルテージも上がってきていた。こんな風にほとんどの子が放課後まで残って準備してくれている。実行委員としてもすごく嬉しかった。
「文化祭、盛り上がるといいねー。絶対一緒に今年も回ろうね、サエ」
「もちろん!」
 子供みたいにはしゃぐ、りさにつられて、私も思わず笑みをこぼした。窓からは、溶け出しそうな夕日の光が教室とみんなをオレンジ色に染めている。接着剤やペンキの臭いがきついけれど、まさしく文化祭にふさわしい雰囲気に胸の奥からゾクゾクと何かが込み上げてきていた。
「あれ。そういや男子が見当たりませんが」
 突然気づいたのか、りさが間抜けな声を出した。そう言われてみると、確かにそうだ。いつの間にか人数が減っている。
「あっ、そういやさっき、大きいセットを隣の部屋でつくってくるって言ってたような」
「ほぅー。任せて平気かしら。めちゃめちゃ心配」
 私はりさの言葉に苦笑しながらも教室をあとにして、追加を頼まれていたペンキを取りに準備室へ向かった。うちのクラス以外、残っているクラスはひとつもなかったことにびっくりした。閑散とした、くすんだグリーンの廊下を走り抜けると、普段はいつも灯りが消えている準備室が見えてきた。扉を開けると、ペンキや埃のツンとした臭いが鼻を刺激した。狭い足の踏み場をなんとか通って、お目当ての色のペンキ缶をしっかりと両手で持ち上げようとしたけれど、このペンキ缶がなかなか重い。気合を入れ直して、私は太ももと腕に力を入れて持ち上げた。
 一歩一歩足を踏ん張りながらなんとか部屋を出ると、タイミングよく前方に日向君を発見した。彼も、何やらデカいゴミ袋を二つ担いでいる。どっちとも今にも袋が裂けそうだ。さっきまでなんの足音もしなかったのに。この階にいるのは自分だけだと思ってたのに。不思議に思いながら、私は片手を上げて日向君の名前を呼んだ。小さい声で言ったはずなのに、声は思ったより響いて大きく聞こえた。日向君はそんな私の声にぱっと顔を上げてこちらに近づいてくる。
「重そうだね、ペンキ」