「それは……」
「日向君のことが、もっと知りたいよ」
そう言った瞬間、彼は一瞬驚いたような表情を見せた。それから、もう観念したというように、少し下を向いて額に拳(こぶし)を添えた。今、彼のブルーグレーのガラス玉のような瞳は見えないけれど、その瞳は、動揺を隠し切れずにゆらゆらと揺れているんじゃないだろうか。
「中野、俺はー……」
その先、どんな事実が口から出てこようとも、私は彼を恐れることはないという、根拠のない自信があった。彼の周りを取り囲んでいた分厚いガラスに今手を触れながら、どうだここまで近づいてやったぞ、という気持ちで、彼を見つめていた。
君のことが知りたい。それだけなんだ。
「俺は、人の心が読めるんだ」
かすれた声で、君は頼りなげにそう呟いた。遠くの教室からは、やたら発音に癖のある、英語教師の授業がうっすらと聞こえた。
ドクドク、心音がやけに鮮明に聞こえる。今、ちゃんと立っているのかも分からない。どんどん頭の中が真っ白になっていく。とても冗談でしょなんて言える空気じゃなかった。まさか本当に、そんなことがあるなんて。
「……ごめん。信じなくていいから」
びっくりして何も言えない私に、日向君は弱々しい声で謝った。嘘じゃないって分かっているのに、問い詰めたのは自分なのに、とてもすぐに受け止め切れる真実ではなかった。
……人の心が読める? ということは、この感情も?
「授業、遅れちゃうよ」
そう呟いて日向君は教室へ向かおうとした。みしみしと、日向君が歩くたびに下駄箱と玄関を跨(また)いでいるすのこは軋(きし)む。日向君の話を信じるとか信じないとか、それより先に、今、日向君を一人にさせちゃいけない。電気が走ったように、その警告が私の体を貫いた。だって、彼の瞳は、さっきあんなに不安で揺れていた。きっと、誰にも言えないことを、私に話してくれたんだ。それだけは分かる。
「ま、待って、日向君。授業、今出ても、きっと中途半端で怒られちゃうから、どうせなら一限はさぼろうよ」
そう言うと、彼は一度目を丸くしてから、私の必死な顔を見て笑った。
「日向君のことが、もっと知りたいよ」
そう言った瞬間、彼は一瞬驚いたような表情を見せた。それから、もう観念したというように、少し下を向いて額に拳(こぶし)を添えた。今、彼のブルーグレーのガラス玉のような瞳は見えないけれど、その瞳は、動揺を隠し切れずにゆらゆらと揺れているんじゃないだろうか。
「中野、俺はー……」
その先、どんな事実が口から出てこようとも、私は彼を恐れることはないという、根拠のない自信があった。彼の周りを取り囲んでいた分厚いガラスに今手を触れながら、どうだここまで近づいてやったぞ、という気持ちで、彼を見つめていた。
君のことが知りたい。それだけなんだ。
「俺は、人の心が読めるんだ」
かすれた声で、君は頼りなげにそう呟いた。遠くの教室からは、やたら発音に癖のある、英語教師の授業がうっすらと聞こえた。
ドクドク、心音がやけに鮮明に聞こえる。今、ちゃんと立っているのかも分からない。どんどん頭の中が真っ白になっていく。とても冗談でしょなんて言える空気じゃなかった。まさか本当に、そんなことがあるなんて。
「……ごめん。信じなくていいから」
びっくりして何も言えない私に、日向君は弱々しい声で謝った。嘘じゃないって分かっているのに、問い詰めたのは自分なのに、とてもすぐに受け止め切れる真実ではなかった。
……人の心が読める? ということは、この感情も?
「授業、遅れちゃうよ」
そう呟いて日向君は教室へ向かおうとした。みしみしと、日向君が歩くたびに下駄箱と玄関を跨(また)いでいるすのこは軋(きし)む。日向君の話を信じるとか信じないとか、それより先に、今、日向君を一人にさせちゃいけない。電気が走ったように、その警告が私の体を貫いた。だって、彼の瞳は、さっきあんなに不安で揺れていた。きっと、誰にも言えないことを、私に話してくれたんだ。それだけは分かる。
「ま、待って、日向君。授業、今出ても、きっと中途半端で怒られちゃうから、どうせなら一限はさぼろうよ」
そう言うと、彼は一度目を丸くしてから、私の必死な顔を見て笑った。