なんだ、偶然帰りが重なっただけか。変に驚いちゃってなんだか恥ずかしい。あれ? でも、今気づいたけど私日向君と普通に話せてる。避けられているわけじゃなかったんだ。
胸のうちにたまっていた一番大きい塊が、すうっと消えていくのが分かった。ところが、私がそう思っていたのも束の間、日向君はじっと茂みの方を睨みつけて、わざと誰かに言い聞かせるように言葉を発した。
「最近、隠し撮り問題あったからね。この辺は人が少ないから、中野も一人で歩くのは気をつけた方がいいんじゃない?」
そう言って日向君はm足元の草むらに隠されていた何かを思い切り踏みつけてから、私を急かした。今、一体何を踏みつけたのか。何も聞けぬまま、上履きの踵(かかと)を若干踏みながらも焦って中に入った。その後、私はなぜか日向君と一緒に職員室まで行って鍵を返した。日向君はさっきの不思議な行動には一切触れることもなく、私も今日の授業のことや部活のことなどなんでもないことを話しながら、あれ、なんで一緒に行動しているんだろうなんて思ったのだけれど、そのまま校門に向かった。
突然、日向君がぴたっと足を止めたのは、校門を出ようとしたそのときだった。
「ごめん、俺忘れ物したから芸棟戻るね。じゃあ、また」
え、という戸惑いの言葉も聞かずに、日向君はさっき来た道を引き返してしまった。やっぱり日向君の行動って、不思議で読めない……。私は、日向君の背中をぼうっと見つめながら呟(つぶや)いた。
「芸棟に忘れ物って、なんだろう……?」
ぽつりと取り残された独り言は、きっと日向君の耳には届かなかった。
「どこのバカが盗撮なんかしてたんだろうね」
翌日朝、昨日と全く同じ位置、同じ格好、同じ表情で、梓が苛立ちを隠せない様子で言い放った。ただひとつ変わったことと言えば、盗撮が過去形になったことだ。
「犯人見つかったの?」
驚きを隠せない様子で聞き返すと、梓はため息をついた。
「犯人が誰かっていうのは、まだ三年の生徒ってことくらいしか知らないけどね。芸棟で小型カメラ設置して盗撮してたらしいよ。ほら、あそこ微妙に階段あるじゃん? 靴履くときちょっとかがむだけでスカートの中が見えるらしいよ」
私は終始口をあんぐり開け、間抜け面をしてしまった。昨日利用したばかりの芸棟が犯行現場だったなんて……私は動揺を隠せないまま、梓にさらに詳しい情報を求めた。
「なんか、匿名の男子が盗撮カメラ見つけて、犯人待ち伏せたらしいよ。そんで、その日の夜、犯人が盗撮カメラを取りに来た直後、逮捕。すごいよね、その子警察もあらかじめ呼んでおいたらしいよ」」
“匿名の男子”は、日向君以外思い浮かばなかった。私は、一旦速まった鼓動を無理やり落ち着かせて、昨日のことを一部始終思い出してみた。
昨日、日向君はなぜかあの時間に芸棟にいた、私の上履きを取り上げ、靴を履く場所をさりげなく移動した、帰り際外からの入室は不可能なのに芸棟に忘れ物をしたと言って戻った。もしそれが、“犯人の待ち伏せ”だったのだとしたら、所も時間も全てが当てはまる。ならば日向君は、最初からあそこが犯行現場だと知っていた……?
そういえば、普段SHRはいつも寝ているのに、あの日、日向君は寝ていなかった。仮に本当に日向君が犯人を捕まえた人だったとしたら、私はまた日向君に助けられた? 一体これで何回目だろう、彼に助けられるのは。それに私、昨日鍵を置きに行くなんてひと言も言ってなかったのに、日向君は私より先を歩いて職員室へと向かった。
ちょっと先の未来が見えるって、もしかして本当?
なんて、絶対あるはずないけど、でも、“興味”というもうひとつの感情が芽生え出していた。同時に日向君に避けられていると感じて一度は萎(しぼ)んでいたその感情が、再び芽を出し始めた。
胸のうちにたまっていた一番大きい塊が、すうっと消えていくのが分かった。ところが、私がそう思っていたのも束の間、日向君はじっと茂みの方を睨みつけて、わざと誰かに言い聞かせるように言葉を発した。
「最近、隠し撮り問題あったからね。この辺は人が少ないから、中野も一人で歩くのは気をつけた方がいいんじゃない?」
そう言って日向君はm足元の草むらに隠されていた何かを思い切り踏みつけてから、私を急かした。今、一体何を踏みつけたのか。何も聞けぬまま、上履きの踵(かかと)を若干踏みながらも焦って中に入った。その後、私はなぜか日向君と一緒に職員室まで行って鍵を返した。日向君はさっきの不思議な行動には一切触れることもなく、私も今日の授業のことや部活のことなどなんでもないことを話しながら、あれ、なんで一緒に行動しているんだろうなんて思ったのだけれど、そのまま校門に向かった。
突然、日向君がぴたっと足を止めたのは、校門を出ようとしたそのときだった。
「ごめん、俺忘れ物したから芸棟戻るね。じゃあ、また」
え、という戸惑いの言葉も聞かずに、日向君はさっき来た道を引き返してしまった。やっぱり日向君の行動って、不思議で読めない……。私は、日向君の背中をぼうっと見つめながら呟(つぶや)いた。
「芸棟に忘れ物って、なんだろう……?」
ぽつりと取り残された独り言は、きっと日向君の耳には届かなかった。
「どこのバカが盗撮なんかしてたんだろうね」
翌日朝、昨日と全く同じ位置、同じ格好、同じ表情で、梓が苛立ちを隠せない様子で言い放った。ただひとつ変わったことと言えば、盗撮が過去形になったことだ。
「犯人見つかったの?」
驚きを隠せない様子で聞き返すと、梓はため息をついた。
「犯人が誰かっていうのは、まだ三年の生徒ってことくらいしか知らないけどね。芸棟で小型カメラ設置して盗撮してたらしいよ。ほら、あそこ微妙に階段あるじゃん? 靴履くときちょっとかがむだけでスカートの中が見えるらしいよ」
私は終始口をあんぐり開け、間抜け面をしてしまった。昨日利用したばかりの芸棟が犯行現場だったなんて……私は動揺を隠せないまま、梓にさらに詳しい情報を求めた。
「なんか、匿名の男子が盗撮カメラ見つけて、犯人待ち伏せたらしいよ。そんで、その日の夜、犯人が盗撮カメラを取りに来た直後、逮捕。すごいよね、その子警察もあらかじめ呼んでおいたらしいよ」」
“匿名の男子”は、日向君以外思い浮かばなかった。私は、一旦速まった鼓動を無理やり落ち着かせて、昨日のことを一部始終思い出してみた。
昨日、日向君はなぜかあの時間に芸棟にいた、私の上履きを取り上げ、靴を履く場所をさりげなく移動した、帰り際外からの入室は不可能なのに芸棟に忘れ物をしたと言って戻った。もしそれが、“犯人の待ち伏せ”だったのだとしたら、所も時間も全てが当てはまる。ならば日向君は、最初からあそこが犯行現場だと知っていた……?
そういえば、普段SHRはいつも寝ているのに、あの日、日向君は寝ていなかった。仮に本当に日向君が犯人を捕まえた人だったとしたら、私はまた日向君に助けられた? 一体これで何回目だろう、彼に助けられるのは。それに私、昨日鍵を置きに行くなんてひと言も言ってなかったのに、日向君は私より先を歩いて職員室へと向かった。
ちょっと先の未来が見えるって、もしかして本当?
なんて、絶対あるはずないけど、でも、“興味”というもうひとつの感情が芽生え出していた。同時に日向君に避けられていると感じて一度は萎(しぼ)んでいたその感情が、再び芽を出し始めた。