「……ごめんなさい……」
聞いているほうがズタボロになってしまいそうなほど痛い声だった。
ごめんなさい、ごめんなさい、幾度も腕のなかから聞こえてくる声を、そのたびに両腕で受け止めた。わたしなんかじゃ力不足だろうけど、それでも、精いっぱい。
彼は何度、こうして謝ったんだろう。どれだけ泣いたんだろう。
罪悪感と、恐怖と、あるいはもっといろんなものに押しつぶされそうだったに違いない。
ずっと、誰にも言えないで。たった、ひとりで。
ここで、手を合わせ続けていたんだ。懺悔のように。
「……あれからずっと、見てません。生きてるのかもわかりません……」
くぐもった声が右肩のあたりで聞こえた。
「野球、やめようって思いました。去年の紅白戦はほんとにメチャクチャでした。レギュラーもとれなかったです。おれは野球やってちゃいけない人間だって思います」
「そんなこと……」
「そんなことあります。でも、やめたら……おれが野球やめたら、あの子を助けられなかった理由がほんとになくなるじゃないですか。あの子が浮かばれないじゃないですか」
この子は、そんなふうに思いながら、きょうまで野球をしていたの?
「おれ、野球やめられないです。ぜったい、なにがあっても、やめられないんです……」
プロに行きたいかと聞いたとき、少し迷い、はにかんでうなずいた朔也くんの顔を思い出す。
あの顔に、言葉に、きっと嘘なんてひとつもなかった。野球が大好きだって、ずっと野球の傍にいたいんだっていう気持ちは、まぶしいくらいに純真で。
でも、だからこそ。それだけじゃないんだ。
――苦しみそのもの。
倉田朔也にとって、野球とは、苦しみそのものだ。