なんと、声をかけたらいいのだろう。ベストな言葉が見つからない。そんなものはきっとない。


「お花、喜んでくれてると思う」


しぼり出すように言った。朔也くんは泣きそうな顔をがばっと上げ、探るようにわたしの瞳をじっと見つめた。


「『ねねちゃん』が事故にあったのは、朔也くんのせいじゃないよ。そんなの誰だって予測できっこなかった。だから……だから、そんなに自分を責めないで」


月並みの台詞しか吐けない自分が情けない。それでも、心からの言葉だった。だからどうか届いてほしい。目は、逸らさない。

つながっている指先からふっと力が抜ける。そしてまた、ぎゅっと握られる。

野球少年のかたい手のひらは、さっきとは比べものにならないほど震えていた。


「……ちがうんです……」


消え入るような声が、わたしたちのあいだにぽとんと落ちた。月明かりがやけに白く見えた。


「違うんです。ほんとはおれ、ぶつかる瞬間、見てました」


ふるふる、朔也くんが首を振るたび、涙の粒が舞う。


「10メートルくらい離れてたと思います。でも、走ればぜったい間に合いました。突き飛ばしでもすれば車とねねちゃんがぶつかることはなかった。助けてあげられたんです」

「でも、そんなことしたら」


朔也くんが事故にあってたんじゃないの?

言いかけたのを、彼は遮るようにして口を開いた。


「そう、行けなかったです、こわかったです、その日、紅白戦があるの、わかってたから」


紅白戦。夏の大会のレギュラーを決めるチーム内での試合。わたしが今年、倉田朔也という存在を知ることになった、選手にとってはとても大切な試合だ。


「逃げるように部活に向かいました。最低です。おれは、自分のために、ねねちゃんを助けなかったんです」


歯を食いしばって涙を流す男の子に、わたしはいま、なにを言ってあげるべきなのだろう。


「……こわくて、ずっと、誰にも言えなかった……っ」


少し高い位置にある頭を、気づけば力いっぱい引き寄せていた。そしてぎゅっと、ぎゅうっと、抱きしめていた。