なんとなく顔を上げるのがこわかった。図星だというのがバレてしまうような気がして。

そう――図星、なのだ。

はじめて気づいた。気づかされてしまった。いや、いままで、気づかないようにしていただけかもしれない。


わたしは、兄とあの少年を、きっとダブらせている。


視界の端にゴミ箱が差しだされているのが見えた。


「かわりだと思ってるなら、それはあんまり感心しないな」

「……思ってないです」


おじさんは大人の顔をして笑った。
いまわたしを射抜いているのは、いろんなものを見てきた瞳だった。バッセンには想像を絶するほど様々な人間が来るからな。わたしみたいなちっぽけな小娘のちっぽけな嘘なんか、手に取るようにわかっちゃうんだろう。

指先の力を抜くと、ぺしゃんこになった紙パックは、ぱっくり口をあけたゴミ箱へと吸いこまれていった。


「あの子の名前は倉田朔也だよ」


冗談みたいに言われる。

もしかして、からかわれてんのかな。


「知ってます」

「なら、いいんだけどサ」

「兄と朔也くんは、そんなふうに思えるほど似てないですよ」


そうかなと、おじさんがいじわるく言う前に、同じことをもうひとりの自分に訊ねられたような気がした。


「ぜんぜん、似てないです」


――たったひとつ、


「ふたりとも、野球の神様に愛されてるってこと以外は」


おにいは神様に見放された。
だから、あの男の子には、そうなってほしくないと思う。

それだけだ。

重ねてるとか、かわりだとか、そんな大それたことじゃない。


「なんか遅い気がするので、わたしちょっと見てきます」


チクチクという秒針が耳ざわりで、たまらず店を出た。丁字路に到達するまで倉田朔也くんとは会わなかった。

いつも別れる道を、普段とは真逆の左へ歩を進める。
ウチへ向かうのと似たような景色なのに、ただ反対になっただけで、それはまったく違うふうに目に映った。