西グラウンドはほとんど野球部のためにある。ウチの野球部はその昔、強豪と呼ばれていたのだが、このグラウンドも当時の名残だ。最近は新しくできた私立高に人材をとられてしまっているみたいだけど、べつにいまだってそんなに弱いわけじゃない。
甲子園に行けるのかどうかは、わからないけど。
まあ、まず無理だろうな。すっかり老朽化している備え付けのスコアボードを見て思う。
「入学してずいぶんたつけど、はじめて来るなあ、ここ」
アップをする部員たちを眺めながらつぶやいた。和穂が隣で静かにうなずいたのが息づかいでわかった。
「光乃は球場、避けてたもんね」
長かったアップが終わるころになってようやく、和穂は言った。
監督の指示で球児たちがベンチへ集まっていく。さっきまであんなに賑やかだった空間が水を打ったように静まり返る。
「ごめんね。無理に連れてきたみたいになっちゃった」
「ううん……もう、ほんとに大丈夫だしさ」
言いながら、自分が少し震えているってことに気づいたけど、気づかないふりをした。
情けない。なにが『大丈夫』なんだろう。いつまでたっても、ぜんぜんダメだ。ぜんぜん、ダメだよ。足がすくんでいる。
野球が、好きだった。大好きだった。
野球をしているおにいのこと、世界一かっこいいと思っていた。
4年前の夏、硬くて冷たい白球が、おにいのすべてを奪い去ってしまうまでは。
「大丈夫だよ」
和穂に向けて言ったのか、自分に向けて言ったのか、よくわからない。声があまりに小さすぎて、本当に口にできていたのかも、わからない。