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「コンバンワ」


きのうもおとといも閉店間際にしか現れなかったおじさんが、きょうは最初からカウンターで出迎えてくれた。いないものだと思っていたので驚き、思わず肩を跳ねさせると、あの独特なクックという声で笑われた。


「……こんばんは」

「朔也くん、まだだよ」


いきなり言われてまたびくっとする。

好奇に満ちた目が嫌で「そうですか」とだけ答え、どこで待っていようかときょろきょろしていると、カウンターの向こう側から紙パックのリンゴジュースが差しだされた。

どうしたらいいかわからずじっと見つめていると、おじさんはジュースを顎でしゃくった。
受け取ってみる。ぬるい。

迷ったけど、せっかくなのでストローをさしてちゅうと吸ってみた。やっぱり、ぬるい。見たことのないパッケージだが味はふつうだ。


「そういや、名前聞いてなかったね」


言いながら、おじさんが煙草に火をつけた。


「村瀬光乃です」

「ムラセ?」


くぼんだ目がじろじろとわたしを見る。

なんだかいたたまれず、ぱっとうつむいてしまった。甘ったるいリンゴジュースをひたすら吸い上げていると、おじさんが煙といっしょに唸り声みたいなものを吐き出した。


「もしかして、隆規くんの妹かなんか?」


やっぱり、おにいのこと知ってるんだ。知ってるよね。あれだけ通っていたんだし……。

うなずくと、おじさんも満足げに深くうなずいた。


「やっぱり、そうか。目元が似てるね」

「よく言われます」


目尻にいくにつれて徐々に広がっているふたえと、キリッとしたつり目。おにいとわたしの唯一のおそろい、自分の顔ではあまり好きなパーツじゃない。おにいの目は、好きなんだけど。