お守りといえば、わたしも渡さなくちゃいけない。でも……。

なんと切り出そうか悩んでいるうちに、やがて丁字路に差しかかった。


「あ、おれ、こっちです」

「わたしこっち」


倉田くんが左へ、わたしが右へ歩を進めかけて、同時にピタッと止まる。


「……もしかして」


その先に続くはずだった質問はするまでもなく、倉田くんは答えを言った。


「おれ、一中です」

「うそ。わたし二中だよ」

「やっぱり! 近いですね。そりゃ、バッセンまで徒歩で行けますね」

「ほんとだね。びっくりしちゃった」


予想外の事実にひとしきり笑ったところで、じゃあ、とどちらからともなく言った。おやすみ、おやすみなさい、夏の夜空にふたつの声が鳴る。


穏やかな気分で家路をたどった。なんだか生まれ変わったような気分だ。なんにも、変わってないんだけど。帰ったら当たり前のように地獄なんだろう。どんな顔でドアを開けようかな。とりあえず、風呂に直行しようかな。そのあとが気まずいなあ。

もらったばかりのストラップを両手でぎゅっと握る。大丈夫、と心のなかで言ってみる。不思議に心が落ち着いていく。


「村瀬さんっ」


そのとき、まるで背中を引っぱられるみたいに、呼ばれた。


「おれ、あしたも行きます、バッセン」


前のめりでそう言った倉田くんは丁字路をちょっとこちら側にはみ出してきていた。無邪気な声だった。それでも、こっちの様子を推しはかるような言い方だった。

どこか心配そうな顔が、月明かりに照らされながら、わたしの言葉を待っている。


「……うん。じゃあ、わたしも行こうかな」


少し遠い場所に立つ男の子まで届くよう、ちょっと声を張った。笑みを含んだその音を聞いて、自分がいま笑っているんだということを自覚した。


「はいっ」


倉田くんは笑った。にぱっと。いつもみたいに。

でも、ふだん学校で見せる後輩としての顔とは、少し違っているように見えた。