「連れてるというより、たまたま会ったんです。倉田くんは学校の後輩で、なんでもないですよ」

「あー、そうだったんだ。ゴメンゴメン、おじさんてっきり朔也くんにも春が来たのかと思っちゃったよ。そうかあ、まだかあ、そうだよなあ」


16・7の男の子とってはたぶんかなりよけいなことを言いながら、おじさんは悪びれもせず白い歯を見せて笑う。倉田くんがむっとしたように「うるせー」と噛みついた。

なるほど、こういうところはちゃんと男の子なんだな。
後輩としての倉田朔也くんではなく、自然体、素の倉田朔也くんに出会えたような感じがして、ちょっとうれしく思った。


「今度はお姉ちゃんも打ってってヨ。女の子にはサービスしてるから」


軽く言いつつ、おじさんが大玉の飴を5つほどこっちに差しだした。オレンジがふたつあったので、帰り道、倉田くんにひとつあげた。


「じゃあおれも、これ、村瀬さんに」


飴玉のかわりに手のひらにおさまったのは、かわいらしいウサギのストラップ。ピンクと白とレースとギンガムチェックで彩られた、女の子っぽいやつ。普段ならぜったい手に取らないし、男の子もふつうはあまり手に取らないと思う。

倉田くん、まさかわたしのためにわざわざこれを選んでくれたのかな?


「……ありがとう」


そっと受け取ると、倉田くんは後輩の顔をして笑った。


「元気出してくださいね」

「うん。元気出たよ」


わたしも、先輩の顔で笑い返した。


手のなかから倉田くんの『大丈夫』がもういちど聞こえた気がした。

お守りにしよう。鞄につけとこう。似合わねえって涼に笑われそうだけど。いいんだ、関係ない。