ずっと、他愛もない話をした。
学校のこと。友達のこと。家族のこと。部活のこと。勉強のこと。
わたしの得意科目が英語と国語だということを知るなり、今度の定期考査はゼヒ教えてください、とかなり必死な様子でお願いされたのには笑ってしまった。


気づけば1時間と少しが経っていた。

時間を忘れてしまうのは、誰もここへ来ないからだ。ほんとに誰も。わたしたち以外にはこの場所が見えていないのかもしれないって、くだらないけどコワイことすら考えてしまった。

マジで、ここ、大丈夫なのかな。つぶれちゃったらちょっといやだ。

心の奥でそんなことを思ったとき、受付のほうから声をかけられたのだった。


「朔也くん、そろそろ閉めちゃうよ」


時計を確認した倉田くんが「はーい」と返事をして立ち上がる。受付からは死角になっているのに名指しされてしまうくらい、ここの常連なのだということを知った。

行こう、と目で合図されたのであわててついていく。


受付カウンターで出迎えてくれたのは、おにいとここへ通っていたときと同じおじさんだった。ちょっと、老けたと思う。でも同じ顔だ。日焼けした頬がぜんぜん変わらないな。


「おっちゃん、おれきょうホームラン打った」


倉田くんが子どもみたいに声をはずませた。


「知ってるよ」

「3回ね」

「はいはい」


クックと笑ったおじさんは、うしろの棚から大きなボックスを下ろすと、倉田くんの前にドンと置いた。どうやらホームラン賞はこのなかから選ぶらしい。

おにいも、選んでいたんだろうか。あのかわいいストラップたちを、このオモチャの山から、わたしのために選んでくれていたんだろうか。


「それにしてもめずらしいね。朔也くんが女の子連れてるなんて」


目が合い、ニヤッとされる。同時に倉田くんががばっと顔を上げた。そのくせコチンとかたまったままなので、結局わたしのほうが口を開くことになった。