ふたりはどれくらいの距離感なんだろう。倉田くんは、柚ちゃんのことをどういうふうに思っているんだろう。
彼の名前を聞くなりじゅわっと頬を染めた、小動物みたいにかわいい女の子の姿がまぶたの裏によみがえる。
「よくしてる、とかじゃないよ。すごくがんばってるのえらいなあって思うからさ。つい、こう、応援したくなっちゃうっていうかね」
倉田くんはうれしそうに笑ってうなずいた。
「最初、マネージャーやるって言いだしたときは大丈夫かなって思ってたんですけど。ほんとにいろいろよく気づいてくれて、日々、みんな感謝してます」
この台詞を柚ちゃん本人にも伝えていてくれたらいいな。マネージャーとしても女の子としてもすごくうれしいと思う。もっとがんばれると思う。柚ちゃんのことだから、もしかしたら、泣いちゃうかもしれないな。
「たしか中学が同じだったんだっけ?」
和穂から聞いた情報を確かめると、ハイという返事。
「1年のとき同じクラスで、ちょっとのあいだ隣の席だったんですよ。ぜんぜんしゃべらないやつで、なにかとすぐ泣くし、まあ、どっちかというととっつきにくかったです」
なんとなく想像がつくけど、この倉田くんが言うんだからきっと相当だ。4年前の記憶を呼び起こしている彼はすこし苦笑しながら、それでもふっと、なつかしい目をした。
「あのころに比べたらほんとに明るくなったと思います。高校入ってマネやり始めてからはもっと!」
「へえ、そうなんだね!」
それって半分は倉田くんのおかげなんじゃないかな、と言いかけて、やめた。
だって、それは、きっと彼女がいちばん伝えたいことだ。それを誰かの口から簡単に明かしてしまうのは絶対ダメだと思ったんだ。
「じゃあさ、倉田くんも、柚ちゃんも、野球に出会えてよかったんだね」
「はいっ」
どうか野球をなくしてほしくないと、痛いほどに思う。
この男の子に。あの女の子に。
もう、誰にも。