「俺以外の誰がウチのセカンド守るってーの?」


鼻で笑ってしまう。バカにしているんじゃない。言葉に実力がちゃんと伴っているのが、つっこみどころがなくて、逆におかしくて。

それでも涼は前者の意味にとったらしく、ふざけるなと憤慨した。


「ばぁか、光乃、見とけよ? 俺たちの二遊間は“鉄壁”って呼ばれてんだ」


自分で言ったら台なしじゃん、と言いかけて、ショートって誰だ? と思う。

たしか、去年の夏はひとつ上の先輩だった。興味を持っていなかったので名前は知らないけど、そうだったはず。


「ショートって誰?」


頭に浮かんだ疑問をそのままぶつけた。涼がよくぞ聞いてくれたという顔をした。


「倉田だよ」


クラタくん……ぜんぜん知らないや。同級生じゃない。ということはつまり、下級生。1年生か2年生。

へえと思う。そうなのか、今年の正ショートは下級生になるかもしれないのか。

去年の夏、1桁の背番号をもらったことをクラス中に自慢していたクラゲ男を思い出す。
倉田くんとやらが、涼とは違う子だったらいいな。もっと謙虚な子だったらいいな。あの自慢につきあわされるコッチはけっこうキツイのだ。


「ほら、あそこにいるだろ?」


涼がふわふわとした動作で前方を指さした。


「あのちっこいの」

「ちっこいのぉ?」

「俺よりちっこいぜ」


うれしそうに言うんじゃない。それに、涼はいちおう平均以上あるんだからべつにちっこくない。横にならぶとけっこう威圧感あるもの。それは、ちゃんと体をつくっているのもあると思う。


西グラにはその後すぐ到着してしまった。

けっきょく『ちっこいの』は見つからなかった。デカイのばかりが集まっているなかにいたので仕方がない。どうせ紅白戦で見られるだろうから、べつにいいか。

すでに三塁側のフェンス外を陣取っていた和穂の傍へ向かう。その間に、そんなに出さなくてもいいのにと思うほどの大声で挨拶をしながら、球児たちはひとりずつグラウンドへ吸いこまれていったのだった。