生きててよかったです、と、倉田くんはいつもみたくにぱっと笑ってこっちを向いた。
「びっくりさせてごめんね……。見つけてくれたのが倉田くんでほんとによかった。ありがとう。ジュースも」
左手に持っているペットボトルを揺らすように振ると、ちゃぽちゃぽとかわいい音がふたりの真ん中で鳴った。
「あの」
それに重なって、倉田くんの声。
「なんで泣いてたか、聞いてもいいですか」
うかがうような言い方だった。
わたしは黙りこんでしまった。びっくりしたんだ。
まさかこんなふうにいきなり踏みこんでこられるなんて、想像もしていなかった。心の準備がまったくできていなかった。
上手い答え、年上らしい、先輩っぽい答え……、もういまさら、そんなのはハリボテか。
「……きょう、三者面談があってね。進路のことで親と盛大に喧嘩しちゃったんだ」
倉田くんはなにも答えない。わたしも、それ以上はなにも言わなかった。
ミンミン、ジワジワ、セミが必死で鳴いているのが遠くに聞こえる。沈黙は長かった。我慢できなくなったのは、けっきょく、わたしのほうだ。
「わたしさ、やりたいことって特にないんだよ。だから、そんな気持ちで進学するくらいなら就職でもいいのかなあって思って。でも、それを言ったら『人生なめてる』って言われちゃった」
なんだか言い訳みたいな説明。くちびるの隙間から乾いた笑いがこぼれた。
「……まあ実際、なめてんだろうねー」
「なめてないです」
ずっと黙りこんでいたくせに、倉田くんはびっくりするほどクリアにしゃべった。
「おれは、村瀬さん、すごいと思います」
茶化されてるのかな。こんな落ちこぼれの出来損ないの出涸らし、どこがスゴイっていうんだろ。