大皿に盛られたからあげは食べる気にならなかったけど、食べないとどうせまたなにか言われるので、進まない箸を必死で動かし続けた。3つめで胸やけがした。
お母さん特製のからあげ。おにいとわたしの大好物が、きょうは、ぜんぜんおいしくない。
黙りこくっている女ふたりにしびれを切らしたのか、重たすぎる空気のなかで口を開いたのは、普段とても無口なお父さんだった。
「光乃。大学に行きたくないのは、なにか理由があるのか」
咀嚼が止まる。同時に、口のなかいっぱいにしょうゆニンニクのにおいが広がった。
わたしが部屋に引きこもっているうちに、どうやらお母さん、帰宅してきたお父さんに三者面談のことをチクったらしい。チクったというのはさすがに人聞きが悪いか。
娘の将来のことをふたりで話しあってくれる、たぶんいい両親なんだと思う。そこらへんは、わかってる。
「……行きたくない理由とか、べつにない」
「そうか」
「でも行きたい理由もない」
お父さんは明らかに困っている様子だった。娘はいつの間にこんなにひねくれてしまったんだろう、みたいな顔をしている。
口をはさんだのはお母さんだ。
「どうせ、働きたい理由だってろくにないんでしょう」
そうだよ。そうだけど。
思っていること、上手く伝えられない。この不透明な気持ちが伝わるとも思わない。
なんかもう、面倒だな。
「……わかった。行けばいいんでしょ、大学」
たぶん、売り言葉に買い言葉だった。でももう止まらないと思った。
「働きたい理由も、働く気も、べつにないよ。やりたいことも夢もない。べつにいらないし」
「光乃」
「おにいだってそうだったんでしょ!」
瞬間、お父さんとお母さんがあからさまにショックな顔をした。
「……隆規は」
くちびるを震わせながら、お母さんはか細くも、しっかりした声で言った。
「自分で決めたのよ。大学には自分で希望して進んだの」
本気でそんなふうに思ってるの?