ぜんぶ台なしになってしまったのは週明けの三者面談のせい。

ゴンちゃんの言いつけを守らず、結局なにも考えないで臨んだわたしは、見事にボロクソに言われたのだった。

でも予想と違って、ゴンちゃんではなく、お母さんのほうからガンガン責めたてられた。
どうするつもりなの、いつまで甘えてるの、カズちゃんだって目標の大学があるんでしょう、アンタはどうするの……エトセトラ。
答えるのが面倒になってしまうくらいにはグワーっといろいろ言われた。


「就職する」


ほとんどお母さんを黙らせるためだけに放った言葉だった。

それが、結果的に、逆鱗に触れてしまった。


「人生をなめるのも大概にしなさい」


お母さんは淡々としゃべっているときがいちばんこわい。低いトーンは本気で怒っている証だ。

すうっと、急激に温度の下がった声に思わず黙りこんだ。


「就職がいけないって言ってるんじゃない。理由があって働きたいならそうすればいいし、実際そういう道を選ぶ子だっているでしょう。でも、光乃からは、なにも感じられない。真剣に就職活動をしようという姿勢すら、まったくないよね。髪だって茶色のままだよね」


ぐうの音も出なかった。その通りだったからだ。

どうしても働きたいわけじゃない。
どうしても進学したいわけじゃない。

なにがしたいのか、わからない。わかりたくない。見ない。考えない。

したいこと、やりたいこと、将来の夢、思い描いた未来が消えてしまう恐ろしさを、お母さんだって知ってるくせに。


「もういっぺん、ご家族と話しあって、おまえもまっさらになって、考えてみろ」


あいだを取り持つように、ゴンちゃんが静かに言った。


「それともなにか思うことでもあるのか?」


答えず、うつむいたまま小さくかぶりを振る。ゴンちゃんは「そうか」と言った。


女子更衣室に寄ろうか迷って、きょうはダメだと思い、みんなにことわって帰宅した。

でも失敗だったな。家にお母さんとふたりきりのほうがよっぽどしんどい。
帰るなり部屋にこもり、夕食まで一歩も外に出なかった。