リュックを自分の席に下ろすなり、和穂はバシッと涼の腕を叩いた。


「ちょっと、藤本、最後のファインプレーすごかったよ! 普段こんななくせに!」

「ちょっと待って、『こんな』ってなに? 最近、原ちゃんも俺に厳しくね? 光乃の影響?」


話題がなんとなくきのうの試合に移ったところで、今度はゴンちゃんが登場した。


「いつまでしゃべってんだ? 席つけ、HR始まるぞ」


3人もいるのにわたしが選ばれて頭のてっぺんを出席簿で小突かれた。マジで、うざい!


「わはは。はよー、ゴンゾ」

「おう、藤本、初戦突破したんだってな。おめでとう」

「お、サンキュー」

「サンキューっておまえな……。そろそろ敬語使えっつうの」


礼儀に厳しい野球部に所属しているので、不本意ながらもどの先生に対してもいちおう敬語を使っているはずの涼でさえ、なぜかゴンちゃんにはくだけた話し方をする。

それを注意はしながらも、ほかの先生にチクったり、本気で処分したりしないあたりが、ゴンちゃんがウチの学年で人気な理由なんだと思う。わたしの茶髪だって同じだ。

そんなつまらないことでおまえらの邪魔はしないと、ゴンちゃんはたまに言う。
ゴンちゃんはきっと、見かけだけでなく、表面上だけでなく、本質の部分で生徒のことを見てくれているんだ。

倉田くんたち2年生がこの男の本当の良さをわかってくれたらいいのに。話してみればおもしろい先生なんだけどな。うざいのは間違いないけど。


「あ、そうだ、村瀬。おまえ来週の三者面談までにはきちんと進路のメド立てとけよ?」

「えー」

「エーじゃねえ」


ちぇーと口をとがらせると、もういちど出席簿でぽこんと小突かれた。


「俺は容赦しねえからな」


知っている。
だから、嫌なんだ。だから、甘えてしまうんだ。

思いきり拗ねてしまいたいような気持ちになった。

このままじゃダメなのだということ、本当はどこかでわかっている。
でも、どうにもわかりたくないという気持ちも、本当だ。