涼のことは最初、かなり苦手に思っていた。だって距離感がぶっ壊れてるんだもん。どこかふにゃふにゃしている感じが、クラゲみたいで気持ち悪かったんだ。

お調子者、ムードメーカー、それでいてたまに頭のキレるやつ。涼は高1の春からずっとそうだ。たぶん、それ以前からそういうやつだったに違いない。

最初の瞬間からクラスの中心人物の地位を手に入れていた藤本涼は、茶髪のせいで悪目立ちしていたわたしに興味を持ち、声をかけてきたのだった。

絶対に苦手だと思っていたはずなのに、いつの間にこんなふうに話すようになっていたんだろう。
いつからファーストネームで呼びあうようになっていたんだろう。

涼は人の心の内に入りこむのが上手い。それよりたぶん、2年という年月がすごい。そうかと思えばついに3年目に突入してしまったので、もしかしたら卒業するころにはこれ以上にこの男と仲良くなっているのかもしれない。

想像して、おかしくなって、くくくと笑ってしまった。


「なに笑ってんだよ?」


涼があのふにゃっとした声で聞いた。


「いや、最初はメッチャ嫌いだったなと思って、涼のこと」

「いや、俺もおまえのことガチヤンキーだと思ってたから」

「あー、それで突っかかってきてたの? わたし喧嘩売られてたんだ?」

「そうやってすぐ喧嘩腰になるところがモロにヤンキーなんだよ!」


涼はわたしのことをヤンキー呼ばわりする。髪がちょっと茶色いってだけで。自分がちょっと、ボウズ頭だからって。

それでも黒染めはしてほしくないらしい。いわく、髪の黒いわたしはわたしではないのだと。勝手じゃない? スタメン落ちしてしまえ。嘘だけど。


「で、いまから和穂とわたしが紅白戦を見守るわけだけど。どうなのサ? レギュラーなれそう?」


茶髪に触れてこようとする左手をかわしながら訊ねてみた。


「あったりまえだろ!」


去年からの正セカンドは白い歯を見せて自信満々に笑った。野球のこととなるとすっかりふにゃふにゃが消え去るのは、いつも素直に感心してしまう。