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「きのう泣いてただろ」


オハヨウにオハヨウと返したら間髪入れずにこれが飛んできた。

初戦突破おめでとう、と言うつもりだったのに、いっきに萎えた。


「泣いてないし」

「いーや。見たもんね。意外とちゃんと見えるんだぜー」


打席に立つ選手の顔が見えたのだから、ソッチからコッチが見えていてもべつに驚かない。

しまったな。勢いにまかせてあんなふうに声を張り上げるんじゃなかった。せめて涙くらいはきちんと拭いておくんだった。

つんと無視してやると、朝練上がりのどこかさっぱりした涼は、腹いせのようにわたしのまわりをうろちょろしだした。ウザ。


「なあ、初戦終わっちゃったんだけど」

「知ってるよ。現場にいたし」

「そろそろ俺に渡すもんない?」


ウザ。
という顔で見上げても、こんなのはもう慣れたってふうにぜんぜんめげない。

しょうがないな。


「きのう、超疲れてたのに、徹夜でやったんだからね」


スクバのなかから加工したフェルトを取り出す。

なんか、こうして見るとメチャクチャお粗末だ。「ほんとにこれでいいの?」と、頭のなかに棲むもうひとりのわたしが言う。

いや、よくないかも。よくない。ぜったいダメ。


「……やっぱナシ」


すでに右手をコッチに差しだしていた涼が「はっ?」と目を見開いた。


「いやいや意味わかんねーけど」

「やっぱナシって言ってんの」

「だからなんで? できてんじゃん? なんで?」


だって、それは、ちょっとこんなのじゃ。
もごもごとアレコレしゃべってみるけど、あんまり情けなくてどれも声にならない。


「……べつに、いいじゃん。矢野ちゃんにもらったんでしょ」

「矢野ちゃんと光乃はぜんぜんベツモノだよ」


なんでこんなに必死になってるんだ。涼も、わたしも。


「きのう、光乃の声すげー聞こえた」


一瞬の沈黙がふっと落ちたあとで、涼はいきなり言った。