7回のウラに試合はふたたび動きを見せた。
相手チームの四番がソロホームランを放ち、同点。市川は一瞬崩れかけたが、春日がマウンドまで声をかけに行き、踏ん張って投げきってくれた。
点をとり返してくれたのはその春日だ。
8回表、ランナーを2塁に置いて四番・春日。センターの頭上を超える打球でランナーを帰還させ、自らも三塁まで走った。向かい風でなければ確実に入っていたと思うくらい、大きな当たりだった。
「春日はキャプテンになるべくしてなった!」
和穂とハイタッチしながら思わず言うと、あたりまえじゃんと返ってきた。
「健太朗のメンタルなめないでよ!」
技術じゃなくてメンタルなのか。でも、そうかもしれない。春日はたぶん、気持ちの強さでプレーするタイプの男だな。そしてその強さこそがチームを引っぱっているんだろう。
その後8回ウラ、9回表と得点はなく。
1点差のままいよいよ迎えた最終イニングは、攻守ともに一歩も譲らないという気迫があった。
最終回も市川がマウンドに立った。それほど調子がいいということだと思う。実際、見ていて気持ちよく投げているのがわかる。
いちど本塁打を浴びているとは思えないくらいの強気なピッチングは、強打の三番バッターを三振に抑えた。
ワンナウト。
そこで、相手チームの四番がふたたび仕事をした。
レフト前ヒット。ワンナウトでランナーが出てしまった。このランナーが帰れば同点、延長戦だ。
「市川っ、がんばれ!!」
スタンドから祈りのような声が次々に上がる。わたしもマウンドまで届くよう、必死で叫んだ。無意識のうちに胸の前で手を組んでいた。