市川の調子がすごくいいのが見ていてわかる。
ストレート、カーブ、フォーク、チェンジアップという4種もの球を使うことに感心していたら、見るだけでよくわかるねと、逆に和穂に感心された。


「バックネット裏だともっとちゃんとわかるんだけど」


ここだと横からしか軌道が追えないので、正確なことを言うのはなかなかむずかしい。


「うん、でも、おにいが投げれる球なら見ればだいたいわかるかも。あの人って妹への指導が無駄に熱心だったから」


テレビで高校野球やプロ野球の中継がやっていれば、どれだけ気分が乗らなくとも、ぜったいいっしょに観戦させられた。実際に球場へ連れていかれたこともしばしばだ。

それでも、おにいの解説つきで見る野球はいつだっておもしろかった。いつの間にか野球というスポーツが大好きになっていたくらいには、最高だった。

ピッチャーとしての主観にまみれたあの解説を、もうどれくらい聞かされていないだろう。


「タカくんの決め球はチェンジアップだったね」

「そう、猛練習してたもん。なつかしいなあ」


おにいはたしかに天才型だったけど、努力の人でもある。ただ、やっぱり楽しくて野球してたんだろうなとは思う。

和穂がわたしのポニーテールをくるっともてあそんだ。


「光乃。いまさ、楽しい?」


一瞬、なにを聞かれているのかぜんぜんわからなくて。やさしい微笑みを見ているうち、みぞおちのあたりからなにかがぐわっとこみ上げてきた。


「……うん、すごい楽しい!」


わたし、いま、楽しんで野球観戦してる。

それは心臓が震えるくらいの喜びだった。


点差に動きがないまま5回までを終えた。

初戦だからか、両チームともエースにほとんど疲労がなく、かなりの好投ができている。四死球もほとんどない。ランナーを背負っても決してへこたれない。

見事な投手戦だ。