昨夜、わたしから送ろうか悩んでいたところに、なぜか涼のほうからメッセージが届いた。『寝坊すんなよ』というお節介には『するかバカ』と返し、しょうがないので『がんばれ』とつけたしてやった。

『おう、がんばる』のあとに、『光乃の太もも楽しみにしてる』なんだもんな。
初戦前夜だっていうのに緊張感のかけらも感じられやしない。セクハラオヤジみたいなその返信は無視した。

でも、そんなこと言ったわりに、スタンドのほうなんかぜんぜん見ないの。
ノックを受ける背番号4を目で追った。あんな真剣な顔、教室で見たことあったかな。

茶化したいわけじゃない。それどころじゃないんだってわかってる。

涼だって、本気なんだ。


相手チームの団長さんと挨拶をしてきたというもみじが一塁側スタンドに戻ってくると、わたしたちはいよいよ整列した。
エール交換。
先頭に立って声を張り上げるのは、重たい学生服に身を包んだもみじだ。

両チームの健闘を心から祈り、わたしも一生懸命叫んだ。腹から声を出すというのはけっこうむずかしい。そのうちノドをつぶしそう。たぶん、夏のあいだにつぶしちゃうだろうな。でも、声が出なくなるまで勝ち進んでくれるなら、それは本当にうれしいことだ。


プレイボールは11時30分ちょうどだった。

相手チームの守備陣がグラウンドに飛びだし、少し遅れて、倉田くんがバッターボックスまでやって来た。バットをかまえる前、倉田くんはやっぱりあのルーティンをおこなった。

ヘルメットのツバを左手でキュッと握り、ぺこりと頭を下げると、バットの先でコンコンと2回、軽く土を叩く。

ああ、いつも通りの倉田くんだ。ちょっと安心。


それにしても、これだけ小さな球場だと選手の表情まで見えちゃうんだな。

バットをかまえた倉田くんは、なにかを探るようにピッチャーをするどく見据えていた。

学校で会うときとはぜんぜん違う目をしてる。子どもっぽい、やんちゃそうな瞳とはかけ離れた、強いまなざし。確固たる意志のあるまなざし。

それは紅白戦のときよりもいっそう緊張感をまとい、ヘルメットの下で厳しく光っていた。


「かっとばせー! さっくっやっ」


わたしもスタンドでめいっぱい声を出し、腕を振り上げ、足を動かした。さっきまでの緊張が嘘みたいに体が動いた。

少しでも、ほんの少しだけでも、力になりたい。