なににおいても『1』が大事だ。
きちんと1があって、はじめて、2、3、と続いていくんだ。
それは、おにいの口癖だった。たぶん信条のようにしていたんだと思う。
だからおにいは第一球目の投球をなによりも大事にしていたし、背負わされたエースナンバーにはおそろしく責任をもっていた。
大会の一回戦だって同じだ。
「緊張してきた……」
朝ごはんで出されたクロワッサンはぜんぜん食べる気になれなかったけど、胃が空っぽのままのほうがきっとマズイと思い、無理やり押しこんだ。
それがいま、ぜんぶ口から出そう。こんなに暑いのに足の震えが止まらない。あんなに恥ずかしかったこのスカート丈が、いまとなってはどうでもいいような気がしている。
「なんで光乃が緊張するの」
雲ひとつない青空を背に笑ったのは雪美だ。高い位置で結ったポニーテールが日差しを受けて黄色く光っている。雪美も、もとから色素が薄いタイプの子だな。肌もめちゃくちゃ白い。
「振付なら完璧だから大丈夫だし、試合なら勝てるから大丈夫だよ」
「うん、そうなんだけど」
「やだもう、光乃ってこんな弱気なやつだった?」
会話を聞いていた和穂が右でからから笑う。光乃は意外とメンタル弱いよって、よけいなことを言いながら真っ黒のポニーテールを楽しそうに跳ねさせている。
きょうはわたしもポニーテール。こんなに高い位置で髪をまとめるのは数年ぶりだ。うなじのあたりがスースーして、どうにも落ち着かない。
「あ、ウチのほうのノック始まったよ! ほら、うずくまってる場合じゃないって」
雪美にぽんと肩を叩かれて立ち上がったとたん、視界がさあっと開けていくような錯覚がした。
空の青、芝の緑、土の黒。
学校で見るのとは違う、公式戦用のユニフォームをビシッと身にまとった選手たちが、すでにその景色のなかを駆けていた。
きのう開会式をおこなったところよりふたまわりは小さい球場。県の端っこのほうにある田舎っぽいこのグラウンドで、ウチのナインは一回目の試合をする。