バックネット裏の上のほうにちょうど2席空いていたので、和穂とならんで腰かけると、隣に座っていたおじさんに高校名を言い当てられた。それから「がんばれよ」と声をかけてもらえた。和穂といっしょになってバカデカイ声で返事をしてしまった。
妙な心地で開会式が始まるのを待った。
やがてアナウンスが流れ、選手入場の音楽がかかり始めると、散り散りだったどよめきにある一体感が生まれて。同時に、熱量はぐんぐん高まっていく。
始まる。
「あ、見て、光乃っ。来た!」
他校の選手を見ながらアレコレしゃべっていた和穂が、いきなり声を上げた。
矢野ちゃんがプラカードをまっすぐ掲げ、先頭をシャキシャキ歩いている。あとに続く春日はどこか余裕があるようにも見える。
図体のでかい市川が見るからに緊張していたのには笑ったし、普段ふにゃふにゃしている涼がシッカリ行進しているのには感動さえ覚えてしまった。
倉田くんはいちばんうしろにいた。
ひときわ小さな選手が、胸を張って、背筋をピンと伸ばして、両脚を高く上げて、歩いている。一歩、一歩、大切に踏みしめているのが伝わってくる。
がんばれ、と心のなかでつぶやいた。
手のひらがダメになるんじゃないかってくらいの勢いで拍手をした。
心臓がドッドッと脈打っている。
全身に鳥肌が立っている。
厳しい日差しが降りそそいでいる。
そう。
夏の大会が、開幕したのだ。