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振付はもうぜんぶ完璧に覚えた。掛け声だって完璧だ。

応援団との掛け合いも、太鼓との兼ね合いもバッチリだし、鶴もぎりぎりのところで千羽に届いた。

チアの青いユニフォームは和穂といっしょに試着してみた。スカートが想像以上に短くて、ちょっとだけ泣き言をもらしてしまった。


それと、和穂は無事、春日にお守りを渡すことができたらしい。すごく喜んでくれたって、同じくすごく喜んでいる姿を見て、胸がじーんとした。春日がスポバにそれをぶら下げているのを目撃したときはもっとじーんとした。

ちなみに、わたしのほうは、まだ完成すらしてないんだけど。

涼には何度も催促されている。

倉田くんからは、なにも言われないな。



夏の大会が開幕する。



「人いっぱいだねえ……」


和穂の間延びした声がどよめきのなかへ吸いこまれてゆく。

ウチの市のド真ん中に位置する県下一立派な球場で、開会式はおこなわれる。準決勝と決勝もここでする。閉会式もだ。毎年変わらない。おにいの最後の年も、こうしてここへ来た。


一歩足を踏み入れた瞬間、圧倒された。

大会を運営するスタッフも、スタンドに座っている観客も、みんながものすごい熱量を持っているように見える。人の持つエネルギーを全身にびりびりと感じている。

ああ、高校野球だなって、心臓が震えた。わたしの体はまだこの感覚を忘れていないのだと思い知った。


ウチはきょうは試合をしない。つまり応援の必要もない。でも、始まりが肝心なんだと和穂に熱心に誘われて、朝早くから制服に着替え、こんな場所へ来たのだった。

土曜に制服を着るのも、制服姿で学校以外の場所へ来るのも、慣れなくてそわそわする。
制服なのは選手たちへの無言の激励だ。ここにいるよ、見てるよ、がんばれって、そういう意味。