「でも、わたしは、藤本さんのそういうところに何度も救われたりしてます」


柚ちゃんは今度、後輩の顔をして微笑んだ。


「いっぱいありがとうって言ってくれるんですよ。ほんとにささいなことでも。失敗ばかりのトロいわたしがすることに、ありがとって、藤本さんは何の気なしに言ってくれて。実はそれを、ひそかに支えにしてるんです」


あの涼がね、と思いつつも、一方で想像できちゃうのが嫌だ。

涼は人を大切にできる男だということ、2年以上もいっしょにいるからもう知ってしまっている。知らないふりはできないくらい、わたしは涼のいいところをよく知ってるんだと思う。


「藤本さんはとっても優しい先輩です」

「……そうかもね」


柚ちゃんは満足そうな笑みを浮かべた。今度は立派なマネージャーの顔だって思った。


「ねえ、柚ちゃんさ、マネほんとに向いてると思うよ」

「ええっ」


短い会話のあいだに感じたことを素直に口にすると、ずっとニコニコすぼまっていた瞳が突然がばっと見開いた。


「ぜんぜんですよっ。わたしなんて、ほんとに、ぜんぜん……」

「ううん。柚ちゃんみたいにちゃんと見てくれてたり、選手に感謝してるマネさんって、絶対なかなかいないもん」

「そんなあ……」


いきなり、両肩にずしっとなにかが乗っかった。


「わたしも柚ちゃんは向いてると思うな」


和穂だ。わたしの肩越しに顔を出している。


「だから、いっしょにがんばろうね」


野球部のマネらしく、柚ちゃんは元気な声でハイっと返事をした。でも、ちょっとだけ泣いてるみたいな声だった。


「光乃先輩、和穂先輩。ありがとうございますっ」


みんながんばってる。
みんな、本気だ。

ここにいると、何回だって思わされる。