実は、わたしもチクチクがんばっているんだ。きのうから始めたせいでまだまだぜんぜん形にはなってないんだけど。


「ていうか光乃さ、なんでお守りふたつ作ってんの?」


和穂がわたしの手元を覗きこみながら訊ねた。どきっというより、ぎくっとした。


「ひとつは藤本のでしょ、で、もうひとつは」

「……予備、というか。練習、というか。なんというか」

「えー、なにそれ。光乃ってそんな堅実なタイプだった?」


笑う和穂にこっちも笑ってごまかしながら、なんで嘘ついてんだろって自分で思った。倉田くんのぶんだって、べつに、ふつうに言えばいいのに。なんでだろ。

特別な関係でもない、同級生でもない、後輩の男の子にこんなことをするなんて、変な誤解をされそうで。恋愛的なことだけじゃなく。

つまるところ、いろいろ聞かれて、いろいろ説明するのが面倒なだけかも。倉田くんのほうにも質問がいっちゃったら嫌だし。


1時間ほどすると、野球部の練習も終わったようで、マネージャーたちが次々と更衣室へやって来た。

矢野ちゃんが持ってきてくれたスポーツドリンクとお菓子は本田先生からの差し入れだという。ありがたくいただいた。水分と糖分が疲れた体にするする沁みわたっていく。お菓子をこんなにおいしいと感じたのはいつぶりだろう。


「和穂先輩、光乃先輩、お疲れさまですっ」


チョコレートを食べているところに、2年生マネ寺尾柚ちゃんの、かわいらしい声が降ってきた。

和穂の頼みで、柚ちゃんはきのうからわたしたちのお守り製作の指導と手伝いをしてくれている。彼女は中学のころ手芸部に所属していたらしく、ほんとに、プロ並みの腕前なのだ。


「わ、和穂先輩、進んでますね。刺繍もかわいいですっ」

「柚ちゃんが教えてくれたからなんとかカタチになってきてるよう。ありがとう」


そんなことないです、と謙遜する柚ちゃんが、空いていたわたしの右側の席に腰かけた。