汗でぐっしょりしたTシャツが気持ち悪くなってきたころ、長いようで短い練習は終わった。東の空にはもう紺色が混ざっている。
へとへとだ。腕も、脚も、信じられないくらい疲れてる。でもぜんぜん嫌な疲れじゃない。むしろ心地のいいだるさ。
それまでの緊張感とはうって変わり、すっかりゆるんだ空気のなかで談笑しながら着替えを済ませると、わたしたちはみんなで千羽鶴の続きを折った。
やっと半分を超えた、らしい。こりゃしばらくは残業かなと、きのう、矢野ちゃんが嘆いていたな。夏前のマネージャーは本当に大変だ。少しでも力になれていればいいんだけど。
「あ、トーナメント発表されてる!」
公式サイトにアクセスしていたらしいもみじが声を上げた。和穂があわててスマホをタップする。いっしょになって液晶を覗きこんだ。
AからFまでの6つの山のうち、ウチはCブロックにいた。
早い段階で強豪と呼ばれているところとぶつかることはなさそうだ。ただ、初戦の相手が油断できない工業高校だった。たしか何年か前のセンバツに出場していたんじゃなかったかな。
「いきなり、なかなかだね」
和穂がぼそりとこぼした。不安を隠しきれていない横顔は、チアリーダーのひとりじゃなくて、キャプテンの彼女の表情をしていた。
「お守り、早く作らないとね」
「うん」
作りかけのお守りを和穂がぎゅっと握る。
ユニフォームをかたどったそれには、背中のほうに背番号の『2』と、お腹のほうに春日のイニシャル『K』が刺繍されている。
刺繍といっても、ちまっとした、かわいいものなんだけど。
それでも、和穂の愛情がいっぱいこもっているそれが、春日にはなによりもの力になってくれるに違いない。