パワーを分けてやるとか、大丈夫だとか、あれだけ勇んでいた和穂のほうが胃が痛くなってるんだから世話ないな。

抽選は15時ごろに終わり、春日もとっくに帰ってきたけれど、その結果は依然、秘密にされたままで。涼に聞いてみても『俺らも部活で聞かされる』とのことで、いまのところウチの生徒では、春日だけがピラミッドのいちばん下段を知っているらしい。

公式サイトにアクセスしてもダメだった。新聞は、たぶんあしたの朝刊だ。

初戦の相手はどこなんだとげっそりするポニーテールを、汗を拭きながらやって来た雪美がちょいっと引っ張った。


「和穂、光乃っ。どこまでできてる?」


きのうからチアリーダーの練習に参加しだしたばかりのわたしたちは、このなかでいちばんの後輩だ。簡単に見えてかなり複雑な動きを取得するのに苦戦しまくっている新米ふたりを、雪美はチア長らしくとても気にかけてくれている。


「やばい」


和穂が短い言葉で答えた。なんともわかりやすい。マジで、やばいよ。ぜんぜん覚えらんない。

歳かな。3年目とはいえ、いちおうまだJKなんだけど。それでも、1年生たちの飲み込みのスピードに追いつけないのは、ぜったい歳のせい。


「ぜんぜんやばくないよ。ふたりとも曲を知っててくれてるおかげか吸収がすごく早い!」


春日はアフリカンシンフォニー、涼はサニー・デイ・サンデー、倉田くんはヤマザキ一番。左投げの市川はサウスポーだったり、あとはウィー・ウィル・ロック・ユーとか、バンビーナとか、ジョックロックとか。

みんなが定番のヒッティングマーチを選んでくれているおかげで、曲を覚えるという作業は無いようなものなので本当に助かってる。このあたりは、おにいに感謝だ。


「無理言ってお願いしたうえ、こんな詰めこみ作業になっちゃってごめんね。ほんと、ふたりには感謝してるの! ありがとうっ」


手取り足取り教えてくれている途中、雪美がうやうやしく頭を下げた。


みんながんばってる。
みんな、本気だ。

選手たちだけがそうなわけじゃないんだってこと、ここに通うようになった数日のあいだで痛いほどにわかった。

たぶん、中途半端な気持ちでここにいてはいけない。わたしも、本気でやんなきゃいけない。


汗を拭い、なかなかできないターンの部分をくり返し練習した。倉田くんのヒッティングマーチだ。