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組み合わせ抽選会は昼間におこなわれるので、春日はいちど学校を抜けるらしい。1時間目が終わってすぐ、和穂に引っぱられて2組へ行った。くじを引く右手にパワーを分けてあげるんだ、こういうのってけっこう大事なんだと力説されて、わたしも連れてこられたというわけだ。

呼びだされてひょっこり顔を出した春日は、なんだかいつもより少しだけ緊張した顔をしていた。


「ヘンなとこと当たったらどうしよう」


開口一番、キャプテンはいきなり弱音を吐いた。その彼女が声を上げて笑う。


「大丈夫だよ。光乃とわたしのパワーも分けてあげるから!」


言うと同時に、細い指に右手首をがちっと掴まれて。次の瞬間、わたしの右手と春日の右手は一直線につながっていたのだった。

小1のころに野球を始めて、それからずっと捕手でいるという春日健太朗の手のひらは、なんだかもう言葉にできないような感触で。

すごいね、と思わずつぶやいたわたしに、恋人どうしのふたりは同じ顔で笑った。


「うん……春日なら大丈夫」


ごく自然にこぼれ落ちた言葉に、春日は目を細めた。握手をしている真ん中にぎゅっと力がこもる。熱く、強く、どこまでも優しい。

これが、キャプテンの手。みんなをまとめ上げ、奮い立たせ、支えながら守っている手。

和穂の好きな人の手。


「ありがとう。なんか、村瀬って“持って”そうだから、運ぜんぶもらっとく」

「えっ、コワ。そもそもなにも持ってないんだけど、なけなしの運ぜんぶとられたの?」

「うん、もらった、ぜんぶ」


離れた右手をぐっぱと動かしながら春日がいつものへらっとした表情を見せた。


和穂も同じように握手をすると、なんともいえない、優しいような強いようなまなざしを、そっと春日に向けた。春日もそれに応えるように和穂を見下ろしている。

その光景を見ていると、ふたりはつきあっているんだなと、わかりきっていることを再確認させられた。
つきあってる、とは違うかな。好きあってる、のほうがしっくりくるかも。


和穂が春日に片想いしていた2年前の夏がなつかしい。もうずっと前のことのように思うし、つい最近のことのようにも思う。

最後の夏をこうしてふたりで迎えることができて、よかった。ほんとによかった。


胸の奥がじんと熱い。