ひとしきり笑った倉田くんがふいに時計に目をやり、「やべ」と短く声を出した。もうそろそろ部活に向かわないとさすがにマズイらしい。
わたしも、たぶんマズイ。
「村瀬さんはもう帰るんですか?」
別れ際の世間話で、なんとなしに聞かれた。
「ううん、これから武道場ヨコ」
「えっ?」
もしかして、と倉田くんの目が言っている。わたしはゆったりうなずいた。
「そうなんだよね……。ほんと、成りゆきなんだけど」
「涼さんのためですか?」
「え?」
まさかこれって、もう聞き飽きたような話の展開になりそう?
「違うよ」
あわてて言った。ため息がいっしょにもれちゃうのは仕方ない。
「それ、みんなに思われてるならほんとに嫌だなあ」
「……違うんですか?」
「違う違う! いろいろと誤解だよー。でも、お守り作るってよけいな約束しちゃったし、またなんか言われそうだな」
「お守り」
「そうなの。ほんと、意味わかんないよね、しかもわたしのほうから言っちゃってさ、頭湧いてたのかな」
言い訳のようにぼろぼろこぼれる言葉を倉田くんは黙って聞いていた。言い訳すればするほどアヤシイなって気づいて、口をつぐむと、ふたつの瞳と視線が合った。
うっ、と思う。ぜったい怪しまれてる。
まあ、いいんだけどさ。ほんとに涼とはなんにもないから。
「部活がんばってね」
気をとりなおして言うと、倉田くんははっとしたように顔を上げた。ついさっき部活行かなきゃって言ってたのを忘れていたらしい。つくづく、飽きない子だ。
「背番号、ほんとにおめでとう」
「はいっ、ありがとうございます!」
「大会楽しみだね」
「はいっ。あした、抽選なんですよ」
そうなのか! それは気が引き締まる。わたしもがんばって振付覚えないと。本番までに間に合うかな。間に合わせないといけないな。