「てきとーでいいんだよ」
ひとしきり笑った和穂が、喉の奥に笑いを残しながら改めて言った。その右手に握られているアイスも溶けだしてきていたけど、本人は気にしていないようだった。
てきとーで、いいのかな。ゴンちゃんも同じことを言った。てきとうに書いてくれりゃいいって。
もしかしたらみんなそんな感じなのかもしれない。そういうふうに、生きているのかもしれない。楽チンだもん。夢とか、未来とか、やりたいこととか、できることとか、考えるの面倒だもんね。
こわいもんね。
「つーかそんなゴンゾーうるさいの?」
ぺろり、和穂のピンク色の舌が涼しげな水色を撫でる。
「超ウルセーよ! 来週中に出さなかったら生物『1』だって」
「うっは! 容赦なさすぎ! つーかやりそう!」
「ねー。そうなんだよ、ほんとに。やばすぎ」
そのままゴンちゃんについてあることないことしゃべっていたら、いつの間にかふたりともアイスを食べ終えていた。どっちもハズレだった。このアイス、ほんとに当たりがあるのかあやしいよ。見たことない。
「あ!」
とつぜん和穂が声を上げ、目を輝かせた。和その視線がわたしの肩の先へ向けられていることに気づいて、そこに誰がいるのかなんとなくわかった。
「健太朗!」
「おー、和穂」
ひょろっと長い体がうれしそうにこっちへ駆け寄ってくる。いまや野球部の主将となった春日(カスガ)健太朗は、高校1年の冬から和穂とつきあっている男だ。
「ふたりして買い食い? つーか村瀬、なんかげっそりしてねえ?」
コトのあらましを和穂が弾むように説明した。春日は去年ゴンちゃんにクラスを持ってもらっていたので、わたしの気持ちが少しはわかるらしく、話を聞くなり爆笑した。