「ありがとうございますっ」

「こちらこそ報告してくれてありがとう。3時間目ね、ちょうど退屈してたから楽しかった。うれしかった!」


倉田くんがあのにぱって顔をした。


「サッカーしてたら遠くの窓のなかに村瀬さんが見えて、なんか、気づいたら体動いてました」

「気づいたら?」

「頭より体のほうが先に動いちゃうんすよ」


なんか、わかる。そういう男の子なんだろうなってこと、はじめて見たときから知っていたような気がする。


「怒られなかった?」

「しっかり怒られました!」


そうだろな。ウチの体育の先生は全体的に厳しい人が多いから。どこもそんなものなのかもしれないけど。

でも、悪びれもせずに笑っているのを見るに、倉田くんってけっこうタフなタイプなのかもって思った。怒られてヘコまないというわけじゃないんだろうけど、たぶん、次の瞬間には怒られたことなんかすっかり忘れちゃってるんだろう。


「村瀬さんは大丈夫でしたか?」

「うん、ちょっと笑っちゃって、3時間目がゴンちゃん……五嶋先生だったから、罰としていままで雑用させられてたよ」

「うわ、五嶋先生の時間だったんですか!」


しまった、という顔をした倉田くんに話を聞くと、2年生のあいだではゴンちゃんってけっこう厳しくてメンドイって評判らしい。まあ、たしかに、間違っちゃいない。


「でも、ゴンちゃんってああ見えて実はけっこういいやつなんだよ」


自分で言っておきながら鳥肌が立った。


「はい、なんとなく、わかります」


倉田くんは、てきとうな同調じゃない、本心からの同意だという目をしてうなずいた。


「なんか、すべてに手を抜かないっていうか。いい意味で、手の抜き方を知らない感じですよね」

「あー、たしかに、そういうとこあるかも」

「村瀬さんもちょっと似てるとこある気がします」


ハァ? という顔をしていたんだと思う。倉田くんは、マズイ、よけいなことを言ってしまったという表情を浮かべて、スミマセン、とあわてたようにくっつけた。