優性生殖でなく有性生殖、有性遺伝でなく優性遺伝。

プリントのみとにらめっこした1時間のあいだに、それだけは嫌というほど頭に叩きこまれた。今度のテストで優性と有性を間違えることは絶対にないと思う。


重たいプリントを抱えて職員室へ向かうと、すでにもうそこにゴンちゃんの姿はなくて。男子バスケ部の顧問をしている彼も部活に行ったんだろうと思い、机の上に終えた仕事を置いた。

汚い机の端っこにポストイットを見つけたので、『完了 ムラセ』とだけ書いて、いちばん上のプリントにぺたっと貼っておく。これだけじゃ味気ないかな。そうだ、怪獣の絵も添えておこう。うわ、我ながら、引くほどへたくそ。


急いで家庭科室へ向かう。職員室のある北舎から家庭科室のある南舎へ行くのに、いちど屋外へ出なければいけない。

そこで見慣れたポニーテールと鉢合わせた。


「あっ、光乃、やっと来た」

「和穂っ。いまから?」

「ううん、わたしはいま終わったとこ。もうほかのみんなも終わっちゃって、あと光乃だけだよ」


ゴンゾーはほんとにもう、と和穂がいつものようにふくれる。


「採寸そんなに時間かからないから、わたし先に行ってるね。先に覚えたぶんの振付、あとで光乃にも教えるね」

「うん、ありがと」

「うんっ。じゃあまたあとで」


輝く笑顔に引っぱられるようにして、細身のうしろ姿を見送った。

黒いポニーテールがぴょんぴょん跳ねている。ドキドキとウキウキが、カッターシャツの下から透けて見える。


わたしも透けて見えているのかな。

だって、ゴンちゃんがあんなふうに笑ったところ、はじめて見た。あんなふうな口調でガンバレって言われたの、はじめてだった。

たぶん、本気で応援してくれてた。