意図がわかると、思わずシャキッと背筋が伸びた。倉田くんがぎゅーっと笑う。おめでとうという気持ちをこめて小さく、音の鳴らない拍手をすると、彼は律儀に頭を下げた。
そのとき、窓の向こう側から「くらたァ!」というものすごい怒号が聞こえて。同時に倉田くんは焦ったようにだだっ広いサッカーコートへ戻っていったのだった。こんなときも足が速くて感心する。
やっぱり、おもしろい子だな。子どもみたい。
教室のなかにわたしを見つけて、背番号のことを報告するためにわざわざ試合を抜けて、結果、怒られて。
「ぶふっ」
たまらず声を出して笑ってしまったじゃないの。
「村瀬ェ、ずいぶんと楽しそうだなあ?」
教卓に両腕をついたゴンちゃんが、間髪入れずに低い声で言った。地を這うような低音。もともとしゃがれているからそれはほんとに物々しくて、はじめ、地獄から聞こえてきたのかと思ったほど。
「……うわ」
「ウワじゃねえ。おまえ、放課後ちょっと来い」
その表情を見るに、断るなんて選択肢は用意されてなさそうだ。
ろくに板書もしていないノートへ視線を戻す途中、涼と目が合い、「ばぁか」と口パクで言われた。続いて、ななめ後ろに座っている和穂に小声で「バカ」と言われた。
ごもっとも。
今回のは絶対わたしがバカだった。笑っちゃったらダメだった。最悪だ。きょうはなにをコキ使われるんだろう。想像するだけでげんなりする。
でも、倉田くんが背番号をもらえたということ。退屈な授業中に、退屈じゃないやり取りができたこと。
なんだか無性にうれしくて、ゴンちゃんに呼びだされたことと相殺だ。むしろコッチのほうが勝ってるくらいだ。
なんだか、どうしてか、どうしても、口元がほころんでしまう。