2年生の教室に訪ねていく必要がなくなったのは、3時間目の生物の授業中のことだった。


聞き取りづらいゴンちゃんの授業に飽き飽きしていたわたしは、頬杖をつき、窓の外にぼうっと視線を向けて。ほんとに暑いなあ、雲ひとつないなあ、窓際の席でよかったなあ、とくだらないことを空想していた。つまり、なにも考えていなかった。

校庭には赤色のゼッケンをかぶった生徒たちがワアワア走りまわっている。赤色は、2年生だ。
ひとつしか変わらないのになんであんなに元気なんだろうなあ。わたしたちも1年前はあんなだったのかな。


ふと、サッカーをしている集団からひょいっと抜けてくる小さな影が見えた。

試合中だろうにどうしたんだろう、暑さで体調を崩してしまったのかな、と思いつつ視界の端だけでその姿を追いかける。すると、やがてそれはピタッと止まり、今度はぶんぶんと手を振りだしたのだった。

その動作がわたしに向けてされているということに気づいたのは、ちょっと経ってから。


……え。倉田くん?

あまりにぼうっとしていたからぜんぜんわからなかった。

なんか、めちゃくちゃ笑ってる。ああ、ほんとだ、よく見たらゼッケンの真ん中に『倉田』と書かれている。


わたしが気づいたことに向こうも気づいたらしく、彼は腕の動きを止めると、今度はなにかジェスチャーを始めた。

背中を指さし。指で四角を描き。左手の指を全部と、右手の人差し指を立てて。それから最後にピースサイン。


――あ。


『背番号、6番、もらいました』