話してみるとかなり気が合い、和穂とわたしが仲良くなるのに時間はさほどかからなかった。クラスは違ったけど、それこそいっしょに野球観戦をしたり、多くの時間を共有したと思う。

やがてウチに遊びに来るようにもなった和穂が、おにいと顔を合わせるのも時間の問題で。
マウンドにいるときとはまた違う、直に会うおにいを知っていくうちに、憧れは徐々に恋へと変わっていったみたいだった。

でも、親友が兄にガチで恋してる状況って、当時は中学生だったし、けっこうキツいものがあったな。いまとなってはもう笑い話だけど。


「レベルの高い身内がいるとほんと大変」


いまは彼氏にぞっこんの和穂が、おそらくもう捨てるしかないフェルトを指でいじりながら他人事のように笑った。


「うん。だから涼なんて、おにいと比べたらミジンコに見える」

「うーわ、辛辣」


ミジンコは、ちょっと言いすぎたかな。サルくらいにしとけばよかった。似てるし。


「そうか、光乃の未来の旦那は一生タカくんと比べられながら生きていくのかー」


冗談っぽく言った和穂といっしょに大笑いしたところで、更衣室のドアが開いた。どやどや入ってきた女子生徒のうち、先頭を歩いていたふたりがわたしたちのほうへ寄ってくる。


「ウワッ、和穂がまたゴミを生んでる!」

応援団長のもみじがあきれたように言い、

「和穂が作ったとなれば春日くんは喜ぶんじゃない?」

チア長の雪美(ユキミ)がおちょくって続けた。


どちらの言葉にも賛同したので和穂の肘を小突いてやる。むっつりした顔を隠そうともしない和穂が「友達をなんだと思ってるの」と文句を言った。


「違う違う、彼氏に愛されてていいなってことだよ」


言いながら、雪美がシュシュでひとつにまとめていた髪をふわりとほどいた。とたん、シャンプーのいい香りがただよってきた。花のような、女の子らしいにおい。

学年イチ、もしかしたら学校イチだと呼び声高い雪美の女子力は計り知れない。いままで蒸し暑いなかで練習をしていたとはとうてい思えないくらい、顔も、髪も、香りでさえ完璧だ。


「ねえ、だからさ、和穂もチアやろうよ。春日くんきっと喜ぶよ。絶対もっとがんばれるって!」


ジャージから制服に着替えた雪美が和穂の正面に座った。もみじがその隣に座り、わたしが積み上げた鶴の山を見て「すごいがんばった」と子どもに接するような口調で言った。あー、心の声が聞こえてくる。へたくそなのは、自覚してるっての。