和穂がうへえと言った。


「光乃って男の理想めちゃくちゃ高いよね。ぜったい、タカくんのせいでしょ?」

「だって、しょうがないよ。おにいはかっこいいじゃん」

「ブラコンめ」


そこはそう言われてもたぶん否定できないのだけど、妹のひいき目を抜きにしてもおにいはかっこいいし、実際、本当によくモテる。

身長185センチ。すっとした二枚目風の顔。頭だってそこそこ良い。ピッチャーだったからガタイもよく、けれども威圧感のない細マッチョ。
性格もさっぱりとしているおにいは、けっこう硬派で、ちゃんと好きになった女の子としか付き合わない誠実な男だ。

いまは野球はしていないけど、たまに帰ってくるおにいはどんどん垢ぬけて、別の意味でかっこよくなっていってると思う。

やっぱりどうしてもお兄ちゃんだし、ぜんぜん、恋愛感情みたいなものは湧かないんだけど。それでも、もしこの人が他人だったら、クラスにいたら、好きになってただろうなあとは時々思う。


村瀬隆規の妹であることが誇りだった。

いまも、誇りに思っている。


妹のほうは完全に劣等生の出涸らしだけど、そんなことはどうでもいいって思えるくらい、わたしはおにいのことが大好きだ。


「藤本もまあまあ人気あるほうなんだけどね」

「そりゃあ、好みってあるじゃない?」

「言っとくけど、タカくんレベルの男はなっかなかいないし、いたとしても好きにはなってもらえないからね」


中1のころ、ウチの兄にマジの片想いをしていた親友が苦笑した。


「なつかしいねえ。和穂がわたしと友達になったのも、最初は『村瀬くん』目当てだったもんね」

「だからそれは誤解だって!」


思い出す。中1の春、野球好きでかなりマニアだという女の子から、いきなり『村瀬くんの妹ってほんと?』と声をかけられたこと。

あんまり突然のことにぽかんとしてしまって。そんなわたしとは裏腹に、目の前の女の子は興奮しきっていて。

彼女の顔を見ているうち、感動みたいなものがぐわあっとこみ上げてきたことを覚えている。

まだ高2になりたてのぜんぜん無名だったおにいを、大好きなおにいを、世界一かっこいいおにいを、こんなふうに知ってくれている人がいるということ。たぶん、うれしかった。かなりうれしかったんだ。